与五郎ザル(2)
与五郎ザル(2)
2024/08/06(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
その後も、与五郎は、山に薪採りにでかけた。やはり、時折、あのサルがやってきて、昼寝の最中に悪さをしているようだった。
薪は散乱しているだけでなく、位置がかわり、どこかに消えている場合もあった。
しかし、あのサルとの出会いを境に、じいさんの薪は、町中で、よく燃え長持ちする、と評判になった。常連の客が買いに来るようになった。
長蛇の列ができ、おかげでいくばくかの銭の貯えもでき、二人の暮らしが楽になった。
薪を運べばすぐに売れたが、同時に、町に出るたびに、サルもどこからかついてくるようになった。
帰りの道すがら、じいさんを眺めては、からかうように笑い返す。捕まえようとしたことも一度や二度ではないが、すばしっこく、そのたびにサルは逃げてしまった。
「今日も良く売れたぞ、ばあさん」
与五郎が元気よく家に戻ると、いつもとは異なり中からばあさんの声がしなかった。
不穏な気配をあたりに感じた。
じいさんは胸が高鳴った。
おかしいと思い、何度も家の中に、おそるおそる声を投げたが、どこからもばあさんの返事はなかった。
家中を捜索し、外に飛び出した。庭に向かうと、ばあさんが木の根元で倒れているのを発見した。
「しっかりしろ」
肩を揺すりながら声をあげ、抱えた。息はあるようだった。しかし、額になにかで打たれたような赤い腫れがあり、返事はしなかった。
じいさんは咄嗟にあのサルを思い出した。
「オレたちにどんな恨みがあるのか知らねえが、あのサルめ。ばあさんをこんなにひどい目にあわせ、次に会ったらゆるさん」
与五郎はあたりを見回し、ばあさんを家の中に運んだ。
それから一日ばあさんは目を覚まさなかった。ひょっとするとこのままあの世へいってしまい、自分だけとり残されてしまうのか、と不安がよぎり、与五郎は涙がとまらなくなった。
「ばあさん、目を覚ましておくれ」
何度も涙声で眠ったままのばあさんの顔を眺め、看病した。
翌日。
額の傷は強い打ち身であるが、原因は不明だと、呼んだ医者もさじを投げた。
ばあさんは倒れたきり目を覚まさないが生活もあるため、何日も行っていない山へ、薪をとりにでかけた。実のところ、あのサルが出てきたら捕まえようとも考えていた。昼寝をせずに寝たふりで待ち構えた。しかし、待てど暮らせどその日は現れなかった。
ばあさんが目を覚まさずに五日が過ぎようとしていた。
以降、なぜかサルはじいさんの目の前に姿を現さない。
そして六日目の朝がきた。
ばあさんの瞼がパチリと開いた。
じいさんは腰を抜かしかけるほど驚いた。
「ば、ばあさん」
「ここはどこですか?」
「よ、良かった。目を覚ましてくれたのか」
じいさんが叫ぶと、ばあさんは不思議そうな目で与五郎をみつめ、ぽつりとつぶやいた。
「わたしはずいぶんと長い間、眠っていたのでしょうか?」
「ああ、六日も寝たきりだった」
「そうですか……。ああ、思い出しました。ガサガサと盗人でもやってきたような不審な音とギャッという叫び声が庭でして、急いで飛び出したのです」
「盗人?あのサルに違いない。木の棒かなにかで、ばあさんを殴りつけたのだろう」
「いいえ」
そこからばあさんは思い出すように、ゆっくりと語りだした。眠っている間に見た夢をひとつひとつ。
「わたしが歩いていると、すぐ目の前に大きな川が流れ、その先に、きれいな花畑がひろがっているのが見えました。わたしが目を奪われその川の先にすすもうとすると、目にも鮮やかな金色の光があたりに放たれ、目の前に仏様が立っていらっしゃったのです」
「それは珍しい夢じゃ」
じいさんは話にうなずきながら、ばあさんの肩にそっと布団をかけた。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
その後も、与五郎は、山に薪採りにでかけた。やはり、時折、あのサルがやってきて、昼寝の最中に悪さをしているようだった。
薪は散乱しているだけでなく、位置がかわり、どこかに消えている場合もあった。
しかし、あのサルとの出会いを境に、じいさんの薪は、町中で、よく燃え長持ちする、と評判になった。常連の客が買いに来るようになった。
長蛇の列ができ、おかげでいくばくかの銭の貯えもでき、二人の暮らしが楽になった。
薪を運べばすぐに売れたが、同時に、町に出るたびに、サルもどこからかついてくるようになった。
帰りの道すがら、じいさんを眺めては、からかうように笑い返す。捕まえようとしたことも一度や二度ではないが、すばしっこく、そのたびにサルは逃げてしまった。
「今日も良く売れたぞ、ばあさん」
与五郎が元気よく家に戻ると、いつもとは異なり中からばあさんの声がしなかった。
不穏な気配をあたりに感じた。
じいさんは胸が高鳴った。
おかしいと思い、何度も家の中に、おそるおそる声を投げたが、どこからもばあさんの返事はなかった。
家中を捜索し、外に飛び出した。庭に向かうと、ばあさんが木の根元で倒れているのを発見した。
「しっかりしろ」
肩を揺すりながら声をあげ、抱えた。息はあるようだった。しかし、額になにかで打たれたような赤い腫れがあり、返事はしなかった。
じいさんは咄嗟にあのサルを思い出した。
「オレたちにどんな恨みがあるのか知らねえが、あのサルめ。ばあさんをこんなにひどい目にあわせ、次に会ったらゆるさん」
与五郎はあたりを見回し、ばあさんを家の中に運んだ。
それから一日ばあさんは目を覚まさなかった。ひょっとするとこのままあの世へいってしまい、自分だけとり残されてしまうのか、と不安がよぎり、与五郎は涙がとまらなくなった。
「ばあさん、目を覚ましておくれ」
何度も涙声で眠ったままのばあさんの顔を眺め、看病した。
翌日。
額の傷は強い打ち身であるが、原因は不明だと、呼んだ医者もさじを投げた。
ばあさんは倒れたきり目を覚まさないが生活もあるため、何日も行っていない山へ、薪をとりにでかけた。実のところ、あのサルが出てきたら捕まえようとも考えていた。昼寝をせずに寝たふりで待ち構えた。しかし、待てど暮らせどその日は現れなかった。
ばあさんが目を覚まさずに五日が過ぎようとしていた。
以降、なぜかサルはじいさんの目の前に姿を現さない。
そして六日目の朝がきた。
ばあさんの瞼がパチリと開いた。
じいさんは腰を抜かしかけるほど驚いた。
「ば、ばあさん」
「ここはどこですか?」
「よ、良かった。目を覚ましてくれたのか」
じいさんが叫ぶと、ばあさんは不思議そうな目で与五郎をみつめ、ぽつりとつぶやいた。
「わたしはずいぶんと長い間、眠っていたのでしょうか?」
「ああ、六日も寝たきりだった」
「そうですか……。ああ、思い出しました。ガサガサと盗人でもやってきたような不審な音とギャッという叫び声が庭でして、急いで飛び出したのです」
「盗人?あのサルに違いない。木の棒かなにかで、ばあさんを殴りつけたのだろう」
「いいえ」
そこからばあさんは思い出すように、ゆっくりと語りだした。眠っている間に見た夢をひとつひとつ。
「わたしが歩いていると、すぐ目の前に大きな川が流れ、その先に、きれいな花畑がひろがっているのが見えました。わたしが目を奪われその川の先にすすもうとすると、目にも鮮やかな金色の光があたりに放たれ、目の前に仏様が立っていらっしゃったのです」
「それは珍しい夢じゃ」
じいさんは話にうなずきながら、ばあさんの肩にそっと布団をかけた。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
その後も、与五郎は、山に薪採りにでかけた。やはり、時折、あのサルがやってきて、昼寝の最中に悪さをしているようだった。
薪は散乱しているだけでなく、位置がかわり、どこかに消えている場合もあった。
しかし、あのサルとの出会いを境に、じいさんの薪は、町中で、よく燃え長持ちする、と評判になった。常連の客が買いに来るようになった。
長蛇の列ができ、おかげでいくばくかの銭の貯えもでき、二人の暮らしが楽になった。
薪を運べばすぐに売れたが、同時に、町に出るたびに、サルもどこからかついてくるようになった。
帰りの道すがら、じいさんを眺めては、からかうように笑い返す。捕まえようとしたことも一度や二度ではないが、すばしっこく、そのたびにサルは逃げてしまった。
「今日も良く売れたぞ、ばあさん」
与五郎が元気よく家に戻ると、いつもとは異なり中からばあさんの声がしなかった。
不穏な気配をあたりに感じた。
じいさんは胸が高鳴った。
おかしいと思い、何度も家の中に、おそるおそる声を投げたが、どこからもばあさんの返事はなかった。
家中を捜索し、外に飛び出した。庭に向かうと、ばあさんが木の根元で倒れているのを発見した。
「しっかりしろ」
肩を揺すりながら声をあげ、抱えた。息はあるようだった。しかし、額になにかで打たれたような赤い腫れがあり、返事はしなかった。
その後も、与五郎は、山に薪採りにでかけた。やはり、時折、あのサルがやってきて、昼寝の最中に悪さをしているようだった。
薪は散乱しているだけでなく、位置がかわり、どこかに消えている場合もあった。
しかし、あのサルとの出会いを境に、じいさんの薪は、町中で、よく燃え長持ちする、と評判になった。常連の客が買いに来るようになった。
長蛇の列ができ、おかげでいくばくかの銭の貯えもでき、二人の暮らしが楽になった。
薪を運べばすぐに売れたが、同時に、町に出るたびに、サルもどこからかついてくるようになった。
帰りの道すがら、じいさんを眺めては、からかうように笑い返す。捕まえようとしたことも一度や二度ではないが、すばしっこく、そのたびにサルは逃げてしまった。
「今日も良く売れたぞ、ばあさん」
与五郎が元気よく家に戻ると、いつもとは異なり中からばあさんの声がしなかった。
不穏な気配をあたりに感じた。
じいさんは胸が高鳴った。
おかしいと思い、何度も家の中に、おそるおそる声を投げたが、どこからもばあさんの返事はなかった。
家中を捜索し、外に飛び出した。庭に向かうと、ばあさんが木の根元で倒れているのを発見した。
「しっかりしろ」
肩を揺すりながら声をあげ、抱えた。息はあるようだった。しかし、額になにかで打たれたような赤い腫れがあり、返事はしなかった。
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