ふたりの彫師(2)
ふたりの彫師(2)
2024/02/27(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
睦月の勝負日まで、嘉七は一心不乱にノミをふるい、仕事の合間に、作品を作った。
それにひきかえ、五郎左は赤ら顔で毎日酒に酔っている。勝負のことなどすっかり忘れている様子だった。
そして、新年も明け、いよいよ明日が勝負の日となった。するとようやく、よっこらせ、と五郎左は重い腰をあげた。
勝負の日の朝になった。
見物人のひとりが言い放った。
「勝負に負けたほうは江戸一という看板を下ろしてもらおうぜ」
そこに嘉七が桐箱を大切そうに抱えやってきた。
「では、わたしの作品を見ていただきましょう」
その箱から取り出された彫り物は、目にも美しい花菖蒲だった。鮮やかな紫色の花びらを目にし、多くの客がどよめいた。
「本物じゃねえのか」
奥のほうから、感嘆と賞賛の声があがった。
しかし、それでもどこか納得がいかない表情で、花菖蒲の周囲を回りながら、嘉七は腕組みし、ぶつぶつとつぶやいていた。
そこに、ぶらりと五郎左がやってきた。
眠そうにあくびをひとつした。
手にはなにも持っていない。
「おい、五郎左、結局、なにもできなかったのか」
大きなヤジがひとつ聴衆から飛んだ。
すると、五郎左は笑いながら懐に腕をつっこみ、小さな風呂敷包みを出した。
「では、あっしの作品を見てもらいやしょう」
風呂敷から現れたのは、鰹の置物だった。出来栄えは確かにみごとで、鱗やヒレは鋭く、さすが日本一の彫師というものだった。
初物好きの江戸っ子には鰹は人気だ。しかし、六月の花菖蒲もまた、江戸では評判の花だった。
「勝負にならねえよ、花菖蒲と鰹じゃ」
嘉七を贔屓にした町人から声が飛んだ。
確かに周囲の誰が見ても、花菖蒲のほうが作品としても芸術性としてもやや上かと感じていた。しかし、嘉七の顔だけが青ざめていた。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
睦月の勝負日まで、嘉七は一心不乱にノミをふるい、仕事の合間に、作品を作った。
それにひきかえ、五郎左は赤ら顔で毎日酒に酔っている。勝負のことなどすっかり忘れている様子だった。
そして、新年も明け、いよいよ明日が勝負の日となった。するとようやく、よっこらせ、と五郎左は重い腰をあげた。
勝負の日の朝になった。
見物人のひとりが言い放った。
「勝負に負けたほうは江戸一という看板を下ろしてもらおうぜ」
そこに嘉七が桐箱を大切そうに抱えやってきた。
「では、わたしの作品を見ていただきましょう」
その箱から取り出された彫り物は、目にも美しい花菖蒲だった。鮮やかな紫色の花びらを目にし、多くの客がどよめいた。
「本物じゃねえのか」
奥のほうから、感嘆と賞賛の声があがった。
しかし、それでもどこか納得がいかない表情で、花菖蒲の周囲を回りながら、嘉七は腕組みし、ぶつぶつとつぶやいていた。
そこに、ぶらりと五郎左がやってきた。
眠そうにあくびをひとつした。
手にはなにも持っていない。
「おい、五郎左、結局、なにもできなかったのか」
大きなヤジがひとつ聴衆から飛んだ。
すると、五郎左は笑いながら懐に腕をつっこみ、小さな風呂敷包みを出した。
「では、あっしの作品を見てもらいやしょう」
風呂敷から現れたのは、鰹の置物だった。出来栄えは確かにみごとで、鱗やヒレは鋭く、さすが日本一の彫師というものだった。
初物好きの江戸っ子には鰹は人気だ。しかし、六月の花菖蒲もまた、江戸では評判の花だった。
「勝負にならねえよ、花菖蒲と鰹じゃ」
嘉七を贔屓にした町人から声が飛んだ。
確かに周囲の誰が見ても、花菖蒲のほうが作品としても芸術性としてもやや上かと感じていた。しかし、嘉七の顔だけが青ざめていた。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
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睦月の勝負日まで、嘉七は一心不乱にノミをふるい、仕事の合間に、作品を作った。
それにひきかえ、五郎左は赤ら顔で毎日酒に酔っている。勝負のことなどすっかり忘れている様子だった。
そして、新年も明け、いよいよ明日が勝負の日となった。するとようやく、よっこらせ、と五郎左は重い腰をあげた。
勝負の日の朝になった。
見物人のひとりが言い放った。
「勝負に負けたほうは江戸一という看板を下ろしてもらおうぜ」
そこに嘉七が桐箱を大切そうに抱えやってきた。
「では、わたしの作品を見ていただきましょう」
その箱から取り出された彫り物は、目にも美しい花菖蒲だった。鮮やかな紫色の花びらを目にし、多くの客がどよめいた。
「本物じゃねえのか」
奥のほうから、感嘆と賞賛の声があがった。
睦月の勝負日まで、嘉七は一心不乱にノミをふるい、仕事の合間に、作品を作った。
それにひきかえ、五郎左は赤ら顔で毎日酒に酔っている。勝負のことなどすっかり忘れている様子だった。
そして、新年も明け、いよいよ明日が勝負の日となった。するとようやく、よっこらせ、と五郎左は重い腰をあげた。
勝負の日の朝になった。
見物人のひとりが言い放った。
「勝負に負けたほうは江戸一という看板を下ろしてもらおうぜ」
そこに嘉七が桐箱を大切そうに抱えやってきた。
「では、わたしの作品を見ていただきましょう」
その箱から取り出された彫り物は、目にも美しい花菖蒲だった。鮮やかな紫色の花びらを目にし、多くの客がどよめいた。
「本物じゃねえのか」
奥のほうから、感嘆と賞賛の声があがった。
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