ふたりの彫師(1)
ふたりの彫師(1)(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
江戸の末広という町に、ふたりの彫師がいた。京や大坂のほうが腕の良い彫師は大勢いたが、五郎左(ごろうざ)と嘉七(かしち)は「自分のほうが、彫師として腕がたつ」と互いに意識しあい、「江戸一」と張り合っていた。
年末にさしかかり、彫師としての仕事の発注は、どちらが多かったのだろうか? と末広町の源助が言い始めた。
「おう、そうよ。それこそ、どちらが上か決めるのに公平な判断というものだ」
長屋に住む佐平も同意した。
人情本や絵本、洒落本、浮世絵などの有名作者を多く独占している版元があった。その下に本を印刷するための板木を彫ってつくる板木屋がぶらさがる。腕がたてばたつほど、名指しで彫り職人に仕事が入った。
「どちらも今年は百以上の彫り仕事を受けているはずです」
二人に仕事を注文する版元・蔦屋の回答だった。
「それでは、明確に腕比べをするため、彫り勝負をして決めようではないか」
負けず嫌いな江戸っ子たちは、口々に騒ぎ始めた。
「おう。かまわねえよ」
双方ともに、二つ返事でこれを了承し、一ヶ月後に勝負することになった。
江戸は二人の勝負話で持ちきりとなり、しまいには往来で喧嘩まで始まった。京や大坂の職人たちはこの噂をきいて、いよいよ江戸の彫師も終わりかと、さげすんだ。
つづく
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江戸の末広という町に、ふたりの彫師がいた。京や大坂のほうが腕の良い彫師は大勢いたが、五郎左(ごろうざ)と嘉七(かしち)は「自分のほうが、彫師として腕がたつ」と互いに意識しあい、「江戸一」と張り合っていた。
年末にさしかかり、彫師としての仕事の発注は、どちらが多かったのだろうか? と末広町の源助が言い始めた。
「おう、そうよ。それこそ、どちらが上か決めるのに公平な判断というものだ」
長屋に住む佐平も同意した。