逆の神様(2)
逆の神様(2)
2024/07/09(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
その後、おじいさんは小僧とのことをすっかり忘れた。
町で茶碗を商う店でこきつかわれ、懸命に働き、いくばくかの銭を手にし、出稼ぎから家に戻った。
季節は心地よい三月になっていた。
景気よく小豆粥を炊いておばあさんが帰りを迎えてくれた。土産を買い、借金を少しでも返すため稼いだ銭を渡し、二人でほっと一息ついていた。
すると夜中に戸が鳴った。
まだ夜は冷える。戸を開けると、目の前にみすぼらしい老人が杖を持ち立っていた。
「どなたですかな?」
おじいさんが訪ねると、家のなかに入りこみ、老人はこう答えた。
「わしは貧乏神じゃ」
「貧乏神?」
「知っているかもしれんが、わしは貧乏なやつが大好きでな」
そう笑うと、欠けた前歯がむき出しになった。
「どうしてここに」
「実は、以前から、ほらそこに住んでおった」
貧乏神は家の中の天井を杖でさした。
「気づきませんでしたが」
おじいさんは天井を見上げた。煤色で黒ずんだ柱が剥き出しにみえる。
「おまえらの家は住みやすくてな。屋根裏で暮らさせてもらっていたのじゃ。しかし、今日になって嫌なにおいがするとおもったら、おまえが町から銭を稼いできた。しかも、小豆粥など炊いて天井に向かい景気の良い湯気をあげている。銭など早くに捨てるがよいぞ。それを言いにきたのじゃ」
「と、とんでもない。今後、わしらは心を入れ替え、貧しさから脱けだすと決めたのです。そのために新しいことに立ち向かい、苦しい出稼ぎにまで行ってきたのですから」
「それが困るんじゃ。そんな前向きなことを考えてはいかんぞ。いままでのように、ぶつぶつと毎日の貧乏暮らしに不平をいいながら、汲々(きゅうきゅう)とするがよい。わしは、前向きな言葉や感謝、ひとの喜ぶことが大嫌い。ひとの困っていることを見るのが大好きじゃ」
「それはあなたの勝手でしょう」
「わしは本当に嫌なのじゃ。困っておる。どうすれば、その銭や景気の良い匂いをなくしてくれる?教えてくれたら、なんでも言うことをきいてやるぞ」
じいさんは、そこで腹が立った。こいつがいたから、いつまでも二人は貧乏だったに違いない。しかも、ずうずうしくも、まだこの家にいついていたい、稼いだ銭まで捨てろ、という。
咄嗟に自分の本心が口から出そうになった。それは、あなた(貧乏神)がこの家から立ち去り、わしら夫婦が金持ちになること、だと。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
その後、おじいさんは小僧とのことをすっかり忘れた。
町で茶碗を商う店でこきつかわれ、懸命に働き、いくばくかの銭を手にし、出稼ぎから家に戻った。
季節は心地よい三月になっていた。
景気よく小豆粥を炊いておばあさんが帰りを迎えてくれた。土産を買い、借金を少しでも返すため稼いだ銭を渡し、二人でほっと一息ついていた。
すると夜中に戸が鳴った。
まだ夜は冷える。戸を開けると、目の前にみすぼらしい老人が杖を持ち立っていた。
「どなたですかな?」
おじいさんが訪ねると、家のなかに入りこみ、老人はこう答えた。
「わしは貧乏神じゃ」
「貧乏神?」
「知っているかもしれんが、わしは貧乏なやつが大好きでな」
そう笑うと、欠けた前歯がむき出しになった。
「どうしてここに」
「実は、以前から、ほらそこに住んでおった」
貧乏神は家の中の天井を杖でさした。
「気づきませんでしたが」
おじいさんは天井を見上げた。煤色で黒ずんだ柱が剥き出しにみえる。
「おまえらの家は住みやすくてな。屋根裏で暮らさせてもらっていたのじゃ。しかし、今日になって嫌なにおいがするとおもったら、おまえが町から銭を稼いできた。しかも、小豆粥など炊いて天井に向かい景気の良い湯気をあげている。銭など早くに捨てるがよいぞ。それを言いにきたのじゃ」
「と、とんでもない。今後、わしらは心を入れ替え、貧しさから脱けだすと決めたのです。そのために新しいことに立ち向かい、苦しい出稼ぎにまで行ってきたのですから」
「それが困るんじゃ。そんな前向きなことを考えてはいかんぞ。いままでのように、ぶつぶつと毎日の貧乏暮らしに不平をいいながら、汲々(きゅうきゅう)とするがよい。わしは、前向きな言葉や感謝、ひとの喜ぶことが大嫌い。ひとの困っていることを見るのが大好きじゃ」
「それはあなたの勝手でしょう」
「わしは本当に嫌なのじゃ。困っておる。どうすれば、その銭や景気の良い匂いをなくしてくれる?教えてくれたら、なんでも言うことをきいてやるぞ」
じいさんは、そこで腹が立った。こいつがいたから、いつまでも二人は貧乏だったに違いない。しかも、ずうずうしくも、まだこの家にいついていたい、稼いだ銭まで捨てろ、という。
咄嗟に自分の本心が口から出そうになった。それは、あなた(貧乏神)がこの家から立ち去り、わしら夫婦が金持ちになること、だと。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
その後、おじいさんは小僧とのことをすっかり忘れた。
町で茶碗を商う店でこきつかわれ、懸命に働き、いくばくかの銭を手にし、出稼ぎから家に戻った。
季節は心地よい三月になっていた。
景気よく小豆粥を炊いておばあさんが帰りを迎えてくれた。土産を買い、借金を少しでも返すため稼いだ銭を渡し、二人でほっと一息ついていた。
すると夜中に戸が鳴った。
まだ夜は冷える。戸を開けると、目の前にみすぼらしい老人が杖を持ち立っていた。
「どなたですかな?」
おじいさんが訪ねると、家のなかに入りこみ、老人はこう答えた。
「わしは貧乏神じゃ」
「貧乏神?」
「知っているかもしれんが、わしは貧乏なやつが大好きでな」
そう笑うと、欠けた前歯がむき出しになった。
「どうしてここに」
「実は、以前から、ほらそこに住んでおった」
貧乏神は家の中の天井を杖でさした。
「気づきませんでしたが」
おじいさんは天井を見上げた。煤色で黒ずんだ柱が剥き出しにみえる。
その後、おじいさんは小僧とのことをすっかり忘れた。
町で茶碗を商う店でこきつかわれ、懸命に働き、いくばくかの銭を手にし、出稼ぎから家に戻った。
季節は心地よい三月になっていた。
景気よく小豆粥を炊いておばあさんが帰りを迎えてくれた。土産を買い、借金を少しでも返すため稼いだ銭を渡し、二人でほっと一息ついていた。
すると夜中に戸が鳴った。
まだ夜は冷える。戸を開けると、目の前にみすぼらしい老人が杖を持ち立っていた。
「どなたですかな?」
おじいさんが訪ねると、家のなかに入りこみ、老人はこう答えた。
「わしは貧乏神じゃ」
「貧乏神?」
「知っているかもしれんが、わしは貧乏なやつが大好きでな」
そう笑うと、欠けた前歯がむき出しになった。
「どうしてここに」
「実は、以前から、ほらそこに住んでおった」
貧乏神は家の中の天井を杖でさした。
「気づきませんでしたが」
おじいさんは天井を見上げた。煤色で黒ずんだ柱が剥き出しにみえる。
https://mnk-news.net/images/logo.png
名字・名前・家系図/家紋ニュース
《F(エフ)》