逆の神様(3)
逆の神様(3)
2024/07/16(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
そこで、おじいさんはふと思い出した。町へ向かう途中に小僧と出会った、あの出来事だった。啓示のように頭に浮かんだ。
――誰か訊ねてきたら逆を言えばよい。
小僧は確かそう言っていたはずだ。
それを思い出し、本音をぐっと押さえ、おじいさんは貧乏神の目を見据えた。
「わ、わかった。実は、わしらは多少の銭は手にできても、あなたと一緒で、実は黄金や小判の類が大嫌いだ。そんなものがこの家をいっぱいに埋め尽くしたら、置く場所もないし、大変困る」
震える声で逆を言った。背後でおばあさんがそんなことを口にしたら、もっと貧乏暮らしになるではないか、と慄き、手を伸ばしていた。
すると、そこで貧乏神は高らかに笑った。
「よくぞ、本当のことを口にした。おまえたちが嫌がることがわしの大好物」
そう言い放つと、杖を大きく振った。
途端に、黄金や小判が天井からジャラジャラと降り注いできた。あまりに眩い光に二人は目を腕で覆った。土間がいっぱいになり、山となっていく。ザクザクと落ちてくる。
すると、そこで貧乏神が悲鳴をあげた。
「な、なんだ、この眩しい光は」
いま更ながら、自分の大嫌いなものに囲まれ埋もれそうになっていることに気づいたようだった。
貧乏神は慌てふためき、絶叫しながら、ふたりの家から飛び出していった。
残された二人は、山と積まれた黄金小判を目の前にし、大喜びした。
「これで、貧乏から抜け出せるかもしれない」
「ありがたいことです」
おばあさんがそう呟くと、おじいさんは、自分の思いと逆の言葉を口にした理由と道中の小僧とのやりとりを回想し、伝えた。
「あの子は神様の化身だったのだろうか」
「そうですね。あなたが常に、自分のなけなしのものを人に分け与える優しい性根だということを知っていて、どこかで見てくれていたのでしょう」
「貧乏神の存在を教えてくれたようなもの。ひょっとするとわしに知らせるために道で待っていてくれたのかもしれない。実際の神様とは、自分の欲しいものでも、半分は他人に捧げるような、立派な存在なのだろう」
その後、借金を全て支払い、家に積まれた黄金、小判のほとんどが二人の手元に残った。多少、納屋を広げ、屋敷を大きくしたが、使いきれない量だった。
しかし二人は、その後も鍬を持ち、田へ向かう生活をつづけた。
前向きな生活、とは、有り余った金や小判を使って楽をしながら生きることではないと思ったし、何よりも道端の小僧のように、自分の大切なものでも、困った人に捧げる人間でありたいと、互いに話し合ったからだ。
不平不満を口にせず感謝し、懸命に日々を生きること。それこそ、貧乏神を再び我が家に呼び込まないことだとも考えた。
二人は黄金をほとんど使うことなく、残った金銀は村に布施(寄付)し、数年後に死んだ。
その後、二人の残した黄金は村が飢饉になると使われ、多くの人たちを救った。しかし遺言により、村で二人を称えた碑は作られなかった。
老夫婦の土地には「小僧の神様」が祀られていたというが、いまは誰も知らない。
了
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
そこで、おじいさんはふと思い出した。町へ向かう途中に小僧と出会った、あの出来事だった。啓示のように頭に浮かんだ。
――誰か訊ねてきたら逆を言えばよい。
小僧は確かそう言っていたはずだ。
それを思い出し、本音をぐっと押さえ、おじいさんは貧乏神の目を見据えた。
「わ、わかった。実は、わしらは多少の銭は手にできても、あなたと一緒で、実は黄金や小判の類が大嫌いだ。そんなものがこの家をいっぱいに埋め尽くしたら、置く場所もないし、大変困る」
震える声で逆を言った。背後でおばあさんがそんなことを口にしたら、もっと貧乏暮らしになるではないか、と慄き、手を伸ばしていた。
すると、そこで貧乏神は高らかに笑った。
「よくぞ、本当のことを口にした。おまえたちが嫌がることがわしの大好物」
そう言い放つと、杖を大きく振った。
途端に、黄金や小判が天井からジャラジャラと降り注いできた。あまりに眩い光に二人は目を腕で覆った。土間がいっぱいになり、山となっていく。ザクザクと落ちてくる。
すると、そこで貧乏神が悲鳴をあげた。
「な、なんだ、この眩しい光は」
いま更ながら、自分の大嫌いなものに囲まれ埋もれそうになっていることに気づいたようだった。
貧乏神は慌てふためき、絶叫しながら、ふたりの家から飛び出していった。
残された二人は、山と積まれた黄金小判を目の前にし、大喜びした。
「これで、貧乏から抜け出せるかもしれない」
「ありがたいことです」
おばあさんがそう呟くと、おじいさんは、自分の思いと逆の言葉を口にした理由と道中の小僧とのやりとりを回想し、伝えた。
「あの子は神様の化身だったのだろうか」
「そうですね。あなたが常に、自分のなけなしのものを人に分け与える優しい性根だということを知っていて、どこかで見てくれていたのでしょう」
「貧乏神の存在を教えてくれたようなもの。ひょっとするとわしに知らせるために道で待っていてくれたのかもしれない。実際の神様とは、自分の欲しいものでも、半分は他人に捧げるような、立派な存在なのだろう」
その後、借金を全て支払い、家に積まれた黄金、小判のほとんどが二人の手元に残った。多少、納屋を広げ、屋敷を大きくしたが、使いきれない量だった。
しかし二人は、その後も鍬を持ち、田へ向かう生活をつづけた。
前向きな生活、とは、有り余った金や小判を使って楽をしながら生きることではないと思ったし、何よりも道端の小僧のように、自分の大切なものでも、困った人に捧げる人間でありたいと、互いに話し合ったからだ。
不平不満を口にせず感謝し、懸命に日々を生きること。それこそ、貧乏神を再び我が家に呼び込まないことだとも考えた。
二人は黄金をほとんど使うことなく、残った金銀は村に布施(寄付)し、数年後に死んだ。
その後、二人の残した黄金は村が飢饉になると使われ、多くの人たちを救った。しかし遺言により、村で二人を称えた碑は作られなかった。
老夫婦の土地には「小僧の神様」が祀られていたというが、いまは誰も知らない。
了
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そこで、おじいさんはふと思い出した。町へ向かう途中に小僧と出会った、あの出来事だった。啓示のように頭に浮かんだ。
――誰か訊ねてきたら逆を言えばよい。
小僧は確かそう言っていたはずだ。
それを思い出し、本音をぐっと押さえ、おじいさんは貧乏神の目を見据えた。
「わ、わかった。実は、わしらは多少の銭は手にできても、あなたと一緒で、実は黄金や小判の類が大嫌いだ。そんなものがこの家をいっぱいに埋め尽くしたら、置く場所もないし、大変困る」
震える声で逆を言った。背後でおばあさんがそんなことを口にしたら、もっと貧乏暮らしになるではないか、と慄き、手を伸ばしていた。
すると、そこで貧乏神は高らかに笑った。
「よくぞ、本当のことを口にした。おまえたちが嫌がることがわしの大好物」
そう言い放つと、杖を大きく振った。
途端に、黄金や小判が天井からジャラジャラと降り注いできた。あまりに眩い光に二人は目を腕で覆った。土間がいっぱいになり、山となっていく。ザクザクと落ちてくる。
そこで、おじいさんはふと思い出した。町へ向かう途中に小僧と出会った、あの出来事だった。啓示のように頭に浮かんだ。
――誰か訊ねてきたら逆を言えばよい。
小僧は確かそう言っていたはずだ。
それを思い出し、本音をぐっと押さえ、おじいさんは貧乏神の目を見据えた。
「わ、わかった。実は、わしらは多少の銭は手にできても、あなたと一緒で、実は黄金や小判の類が大嫌いだ。そんなものがこの家をいっぱいに埋め尽くしたら、置く場所もないし、大変困る」
震える声で逆を言った。背後でおばあさんがそんなことを口にしたら、もっと貧乏暮らしになるではないか、と慄き、手を伸ばしていた。
すると、そこで貧乏神は高らかに笑った。
「よくぞ、本当のことを口にした。おまえたちが嫌がることがわしの大好物」
そう言い放つと、杖を大きく振った。
途端に、黄金や小判が天井からジャラジャラと降り注いできた。あまりに眩い光に二人は目を腕で覆った。土間がいっぱいになり、山となっていく。ザクザクと落ちてくる。
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