子授け銀杏(いちょう)(1)
子授け銀杏(いちょう)(1)(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
その村は広島藩領にあった。
山間地にある細長い集落だった。
村高は九百石あまりだから、それほど大きくない。城下から歩くと、八里も離れているせいか、村人以外にひとが訪れることは稀だった。
初雪が舞ったその夜、夫婦は囲炉裏の火に照らされ、うつむいていた。
夫の名は彦兵衛。妻はすえといった。
夫婦仲は良く、村でも評判の働き者だった。なぜか二人には何年も子供が授からなかった。
彦兵衛は村の子供を集めては一緒に遊び、すえは子供達へ、だんごなどを与えては日々を過ごしていた。
「わたしたちにも、そろそろ子供が授かってほしいものです」
妻がわらじ作りの夜なべをしながらぽつりともらした。
先年、よくあたるという町の易者に、子供ができるか二人は占ってもらった。
しかし、できない可能性が大、との易の結果だった。絶望的な思いで、村まで足取り重く戻ったことを思い出した。
「このままでは二人とも年をとってしまう。城下まで行けば子供をゆずりたいという方もいらっしゃるかもしれない。明日、町まで足を向けてみないか」
夫婦は同意し、城下町へ朝早く出かけた。雪はやんでいたが、足元は凍っていた。
二人が山道を黙々と歩き続けると、左手に枯れた大木が見えた。林の中に一本だけ銀杏の古木があった。
すえはそこで足をすべらせた。
「大丈夫か?」
「はい。足先が冷え、疲れたようです」
「少し休もう」
そう語り、白く積もった枝そばの巨石に座り、二人は少しだけ息を整えた。
すえは立ち上がると、巨木を振り返った。
なにかをすえに訴えているような古木をしばらく眺めた。
背を向け、また歩きはじめた。
つづく
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その村は広島藩領にあった。
山間地にある細長い集落だった。
村高は九百石あまりだから、それほど大きくない。城下から歩くと、八里も離れているせいか、村人以外にひとが訪れることは稀だった。
初雪が舞ったその夜、夫婦は囲炉裏の火に照らされ、うつむいていた。
夫の名は彦兵衛。妻はすえといった。
夫婦仲は良く、村でも評判の働き者だった。なぜか二人には何年も子供が授からなかった。
彦兵衛は村の子供を集めては一緒に遊び、すえは子供達へ、だんごなどを与えては日々を過ごしていた。
「わたしたちにも、そろそろ子供が授かってほしいものです」
妻がわらじ作りの夜なべをしながらぽつりともらした。