白狐との約束(2)
白狐との約束(2)
2024/05/21(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
そして、その夜、また庭から歌が聞こえてきた。
今度は何人もの複数の声が響いている。
「そ~たろ~はなまけもの。おしょうは、そ~れを知っている」
今度は和尚の事まで歌っている。
惣太郎はまた恐ろしくなり、部屋の布団に頭からもぐった。
次の日の夜も、また次の日も歌は続いた。
そろそろ惣太郎も歌になれ、便所に起きても怖くなくなった。
便所の前に向かうと、そこに巨大な栗が逆さになって転がっているのがみえた。ひとの頭ほどの大きさだった。
腰を抜かしかけたが、もれそうだったので、その栗めがけ、小便をかけた。
栗に湯気があがり、あたりに白い煙が出た。
そこに現れたのは白いキツネだった。
「おまえが歌の正体か」
惣太郎は大きな声でどなりつけると、その場からキツネが消えた。複数の歌声を一匹で歌っていたのかはなぞだった。
和尚に翌朝、伝えた。
「たぬきではなく、白狐だったか。白狐はあまり悪さをしないというが」
数日後、どこかでその話を耳にしたのだろう。庄屋の権兵衛が家にやってきた。
「惣太郎、おまえは村一番の怠けものだが、勇気があると聞いた。うちでお前を雇いたい」
仕事の話だった。そろそろ貯えも尽きてきたので悪い話ではなかった。が、気になったのは、庄屋はずるがしこい、と村では評判なことだ。小作の稲の出来も、うまくかすめとるらしい。あまり信用のおける人物でない点のみが心配だった。
承諾し、次の日から庄屋の家に働きにむかった。しかし、野良仕事ではなく、夜に来いという。
庄屋の家は大きく、年頃のきれいな娘がいた。
「惣太郎、よくきてくれた。実は今年になってから、毎晩、家の庭で不気味な声がする。どうやら化け物が歌を歌っているようなのだが、その内容が気味悪い。娘の命をもらいうける、といったことを唄っているようなのだが、ひとつ正体をたしかめてくれないか。わしたちも娘もおびえて、この一年満足に眠っていない。助けてくれたら、お礼はたんとする」
惣太郎は、わかった、と胸をたたいた。庄屋の目は信用成らないものだったが、村一番のベッピンと評判高い娘にいいところを見せたかった。
その夜、惣太郎は大きな囲炉裏の前に布団を敷いてもらい眠った。目を覚ましていたはずがいつのまにか眠ってしまった。すると、囲炉裏の火が風で消えた。寒くなり、惣太郎は目を覚ました。どうやら、何か得体のしれないものがやってきた、と予感した。
「娘~の~いのちを~もらいう~ける」
耳を澄ますと、広い庭の方角からそう聞こえてくる。
「これだな」
惣太郎は驚かない。家で何度も経験している。のそりのそりと長い廊下を伝い、庭に出た。
そして歌に耳を澄ました。
「それがいやなら、樽に娘を~詰めて~置け~」
そう聞こえた。
「そういうーおーまえーをー樽にー詰めてやーろーお」
惣太郎は反射的にそう歌い返した。すると、その歌声がまもなくぴたりとやんだ。
そして草むらがざわざわと鳴った。
翌朝、その話を庄屋に伝えると大いに喜んだ。
「ありがたい。これで枕を高くできる。褒美は何が良いか?なくても良いか?」
「いや、まだわかりません。数日、番をしてみなければ」
惣太郎は、その夜も、次の日も庄屋の家で眠った。しかし、あの化け物の歌は二度と消えなくなった。
そしてもうやってこないかもしれないと判断できる二十日目となった。娘とも天候や好きな動物の話などができるような仲になり、娘を守るこの仕事が少したのしくなってきた。
「今夜、あの声がしなければお役御免でよいのではないか」
庄屋はそう言葉をかけてきた。残念ではあるが仕方ない。
「今日で最後の晩としましょう」
きっぱりと伝え、囲炉裏前で眠った。
すると、どこからかあの不気味な声が聞こえてきた。さっととび起き、耳を澄ませると、やはり庭の方角からだった。
「娘~の~いのちを~もらいう~ける。こんやこ~そ、本気だぞ~。それがいやなら、娘を樽に~詰めて~待て~」
そう聞こえた。
その時、惣太郎は、どかどかと外の便所に向かった。小便がしたかったからだが、あのときの記憶がよみがえった。
すると、闇の便所の前に、やはり大きな竹の子が生えていた。今日は数本ある。それは巨大で人間の大人と子供ほどの大きさだ。
おもいきり、着物の裾をまくりあげ、竹の子めがけ、小便をおもいきりかけた。すると、ジュワリ、と湯気があがり、白い煙が大量に舞いあがった。そこにはいつかの白狐と子狐が二匹姿を現した。
「やはり、おまえらのしわざか。なにが目的だ」
すると、おびえた白狐が答えた。
「毎晩、腹が減ってたまらぬ。冬は獲物なく、苦しい」
「なぜ、庄屋の娘をほしがる」
「庄屋の娘をさらえば、山の神に、いけにえにする。そうすれば巣で待っている子たち五匹が救えるかもしれない」
「山の神の生贄か。わしの家を狙ったのは何のためじゃ?」
「神の生贄には村一番のきれいな若い娘が必要だ。おまえは怠けもの。まずは意気地のないおまえをおどかせば、それが村で評判となり、いずれは、庄屋も娘を差し出すに違いないと考えたまで」
「残念だが、理にかなっている」
自分のことを馬鹿にされているものの、惣太郎は合点がいき、納得した。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
そして、その夜、また庭から歌が聞こえてきた。
今度は何人もの複数の声が響いている。
「そ~たろ~はなまけもの。おしょうは、そ~れを知っている」
今度は和尚の事まで歌っている。
惣太郎はまた恐ろしくなり、部屋の布団に頭からもぐった。
次の日の夜も、また次の日も歌は続いた。
そろそろ惣太郎も歌になれ、便所に起きても怖くなくなった。
便所の前に向かうと、そこに巨大な栗が逆さになって転がっているのがみえた。ひとの頭ほどの大きさだった。
腰を抜かしかけたが、もれそうだったので、その栗めがけ、小便をかけた。
栗に湯気があがり、あたりに白い煙が出た。
そこに現れたのは白いキツネだった。
「おまえが歌の正体か」
惣太郎は大きな声でどなりつけると、その場からキツネが消えた。複数の歌声を一匹で歌っていたのかはなぞだった。
和尚に翌朝、伝えた。
「たぬきではなく、白狐だったか。白狐はあまり悪さをしないというが」
数日後、どこかでその話を耳にしたのだろう。庄屋の権兵衛が家にやってきた。
「惣太郎、おまえは村一番の怠けものだが、勇気があると聞いた。うちでお前を雇いたい」
仕事の話だった。そろそろ貯えも尽きてきたので悪い話ではなかった。が、気になったのは、庄屋はずるがしこい、と村では評判なことだ。小作の稲の出来も、うまくかすめとるらしい。あまり信用のおける人物でない点のみが心配だった。
承諾し、次の日から庄屋の家に働きにむかった。しかし、野良仕事ではなく、夜に来いという。
庄屋の家は大きく、年頃のきれいな娘がいた。
「惣太郎、よくきてくれた。実は今年になってから、毎晩、家の庭で不気味な声がする。どうやら化け物が歌を歌っているようなのだが、その内容が気味悪い。娘の命をもらいうける、といったことを唄っているようなのだが、ひとつ正体をたしかめてくれないか。わしたちも娘もおびえて、この一年満足に眠っていない。助けてくれたら、お礼はたんとする」
惣太郎は、わかった、と胸をたたいた。庄屋の目は信用成らないものだったが、村一番のベッピンと評判高い娘にいいところを見せたかった。
その夜、惣太郎は大きな囲炉裏の前に布団を敷いてもらい眠った。目を覚ましていたはずがいつのまにか眠ってしまった。すると、囲炉裏の火が風で消えた。寒くなり、惣太郎は目を覚ました。どうやら、何か得体のしれないものがやってきた、と予感した。
「娘~の~いのちを~もらいう~ける」
耳を澄ますと、広い庭の方角からそう聞こえてくる。
「これだな」
惣太郎は驚かない。家で何度も経験している。のそりのそりと長い廊下を伝い、庭に出た。
そして歌に耳を澄ました。
「それがいやなら、樽に娘を~詰めて~置け~」
そう聞こえた。
「そういうーおーまえーをー樽にー詰めてやーろーお」
惣太郎は反射的にそう歌い返した。すると、その歌声がまもなくぴたりとやんだ。
そして草むらがざわざわと鳴った。
翌朝、その話を庄屋に伝えると大いに喜んだ。
「ありがたい。これで枕を高くできる。褒美は何が良いか?なくても良いか?」
「いや、まだわかりません。数日、番をしてみなければ」
惣太郎は、その夜も、次の日も庄屋の家で眠った。しかし、あの化け物の歌は二度と消えなくなった。
そしてもうやってこないかもしれないと判断できる二十日目となった。娘とも天候や好きな動物の話などができるような仲になり、娘を守るこの仕事が少したのしくなってきた。
「今夜、あの声がしなければお役御免でよいのではないか」
庄屋はそう言葉をかけてきた。残念ではあるが仕方ない。
「今日で最後の晩としましょう」
きっぱりと伝え、囲炉裏前で眠った。
すると、どこからかあの不気味な声が聞こえてきた。さっととび起き、耳を澄ませると、やはり庭の方角からだった。
「娘~の~いのちを~もらいう~ける。こんやこ~そ、本気だぞ~。それがいやなら、娘を樽に~詰めて~待て~」
そう聞こえた。
その時、惣太郎は、どかどかと外の便所に向かった。小便がしたかったからだが、あのときの記憶がよみがえった。
すると、闇の便所の前に、やはり大きな竹の子が生えていた。今日は数本ある。それは巨大で人間の大人と子供ほどの大きさだ。
おもいきり、着物の裾をまくりあげ、竹の子めがけ、小便をおもいきりかけた。すると、ジュワリ、と湯気があがり、白い煙が大量に舞いあがった。そこにはいつかの白狐と子狐が二匹姿を現した。
「やはり、おまえらのしわざか。なにが目的だ」
すると、おびえた白狐が答えた。
「毎晩、腹が減ってたまらぬ。冬は獲物なく、苦しい」
「なぜ、庄屋の娘をほしがる」
「庄屋の娘をさらえば、山の神に、いけにえにする。そうすれば巣で待っている子たち五匹が救えるかもしれない」
「山の神の生贄か。わしの家を狙ったのは何のためじゃ?」
「神の生贄には村一番のきれいな若い娘が必要だ。おまえは怠けもの。まずは意気地のないおまえをおどかせば、それが村で評判となり、いずれは、庄屋も娘を差し出すに違いないと考えたまで」
「残念だが、理にかなっている」
自分のことを馬鹿にされているものの、惣太郎は合点がいき、納得した。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
そして、その夜、また庭から歌が聞こえてきた。
今度は何人もの複数の声が響いている。
「そ~たろ~はなまけもの。おしょうは、そ~れを知っている」
今度は和尚の事まで歌っている。
惣太郎はまた恐ろしくなり、部屋の布団に頭からもぐった。
次の日の夜も、また次の日も歌は続いた。
そろそろ惣太郎も歌になれ、便所に起きても怖くなくなった。
便所の前に向かうと、そこに巨大な栗が逆さになって転がっているのがみえた。ひとの頭ほどの大きさだった。
腰を抜かしかけたが、もれそうだったので、その栗めがけ、小便をかけた。
栗に湯気があがり、あたりに白い煙が出た。
そこに現れたのは白いキツネだった。
「おまえが歌の正体か」
惣太郎は大きな声でどなりつけると、その場からキツネが消えた。複数の歌声を一匹で歌っていたのかはなぞだった。
和尚に翌朝、伝えた。
「たぬきではなく、白狐だったか。白狐はあまり悪さをしないというが」
そして、その夜、また庭から歌が聞こえてきた。
今度は何人もの複数の声が響いている。
「そ~たろ~はなまけもの。おしょうは、そ~れを知っている」
今度は和尚の事まで歌っている。
惣太郎はまた恐ろしくなり、部屋の布団に頭からもぐった。
次の日の夜も、また次の日も歌は続いた。
そろそろ惣太郎も歌になれ、便所に起きても怖くなくなった。
便所の前に向かうと、そこに巨大な栗が逆さになって転がっているのがみえた。ひとの頭ほどの大きさだった。
腰を抜かしかけたが、もれそうだったので、その栗めがけ、小便をかけた。
栗に湯気があがり、あたりに白い煙が出た。
そこに現れたのは白いキツネだった。
「おまえが歌の正体か」
惣太郎は大きな声でどなりつけると、その場からキツネが消えた。複数の歌声を一匹で歌っていたのかはなぞだった。
和尚に翌朝、伝えた。
「たぬきではなく、白狐だったか。白狐はあまり悪さをしないというが」
https://mnk-news.net/images/logo.png
名字・名前・家系図/家紋ニュース
《F(エフ)》