白狐との約束(1)
白狐との約束(1)
2024/05/14(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
日向の国(現・宮崎県)の北の山奥に惣太郎という怠けものがいた。その村で惣太郎の怠けは有名で、誰一人、仕事の話をもってくることがなかった。心根は優しい男だった。
ある夜、貯えの米も尽き欠け腹をすかしながら惣太郎が囲炉裏端でうとうと寝ていた。
「寒くなった」
小便がしたくなり目が覚めた。あたりを見回すと、風が吹き込み、囲炉裏の火を消していた。
外の便所へ向かうと、庭先から不気味な声が聞こえてくる。
「そ~たろ~はなまけもの」
と風にゆられて聞こえてくる。
びくりとし、耳を澄ませ、立ち止まるとやはり、「そ~たろ~はなまけもの」と響いてきた。
暗闇のどこから声がするのか、あたりを見回したが誰もいない。惣太郎は恐怖で身が縮み部屋に逃げ帰った。恐ろしくなりそのまま頭から布団の中にもぐり込み、朝まで、念仏を唱え、ガタガタと震えた。
翌朝、惣太郎は村一番の物知りの念仏寺の坊主のところへ足を向けた。
昨夜の話をすると、老僧は、笑い声をあげ、それはたぬきか成仏できない霊に違いない、と言った。
「和尚様、どうすれば防げましょう?」
「今日もそのような歌声が聞こえたら、こういえばよい。おまえこーそー怠けもの」
「そうすると、どうなりましょう?」
「相手は、お前がおびえると思っているのに、同じ言葉を返してくるので、違うことをしてこよう」
「それでは解決になっていないのでは」
「そうじゃな。しかし、相手の出方を見る、というのも兵法では重要なこと」
算学や兵法にも詳しい和尚は、頷いた。
とりあえず家に戻った。
惣太郎は布団をかぶり、眠ったふりをした。夜が更けてくると、やはりどこからか風が吹き、囲炉裏の火を消した。
しばらくすると、あの歌が庭の方角から聞こえてきた。
「そ~たろ~はなまけもの」
惣太郎は布団からそっと抜け出し、恐る恐る声のある庭へ足を向けた。
同じ歌が何度か流れた。
和尚の言葉を思い出し、こう返した。
「おまえこーそーなまけもの」
すると、一瞬、すべての音がピタリとやんだ。明らかに動揺した空気が流れた。
夜陰のなかで草ががさがさとなる音が響いた。
翌朝、惣太郎は昨夜の件を再度和尚に伝えに寺へ向かった。
「そうか。歌がやんだか」
和尚は満足そうにうなずいた。
「ありがとうごぜえやす。これで夜もゆっくりと眠れます」
惣太郎がそう胸をなでおろすと、果たしてそうかな、と最後に和尚は漏らした。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
日向の国(現・宮崎県)の北の山奥に惣太郎という怠けものがいた。その村で惣太郎の怠けは有名で、誰一人、仕事の話をもってくることがなかった。心根は優しい男だった。
ある夜、貯えの米も尽き欠け腹をすかしながら惣太郎が囲炉裏端でうとうと寝ていた。
「寒くなった」
小便がしたくなり目が覚めた。あたりを見回すと、風が吹き込み、囲炉裏の火を消していた。
外の便所へ向かうと、庭先から不気味な声が聞こえてくる。
「そ~たろ~はなまけもの」
と風にゆられて聞こえてくる。
びくりとし、耳を澄ませ、立ち止まるとやはり、「そ~たろ~はなまけもの」と響いてきた。
暗闇のどこから声がするのか、あたりを見回したが誰もいない。惣太郎は恐怖で身が縮み部屋に逃げ帰った。恐ろしくなりそのまま頭から布団の中にもぐり込み、朝まで、念仏を唱え、ガタガタと震えた。
翌朝、惣太郎は村一番の物知りの念仏寺の坊主のところへ足を向けた。
昨夜の話をすると、老僧は、笑い声をあげ、それはたぬきか成仏できない霊に違いない、と言った。
「和尚様、どうすれば防げましょう?」
「今日もそのような歌声が聞こえたら、こういえばよい。おまえこーそー怠けもの」
「そうすると、どうなりましょう?」
「相手は、お前がおびえると思っているのに、同じ言葉を返してくるので、違うことをしてこよう」
「それでは解決になっていないのでは」
「そうじゃな。しかし、相手の出方を見る、というのも兵法では重要なこと」
算学や兵法にも詳しい和尚は、頷いた。
とりあえず家に戻った。
惣太郎は布団をかぶり、眠ったふりをした。夜が更けてくると、やはりどこからか風が吹き、囲炉裏の火を消した。
しばらくすると、あの歌が庭の方角から聞こえてきた。
「そ~たろ~はなまけもの」
惣太郎は布団からそっと抜け出し、恐る恐る声のある庭へ足を向けた。
同じ歌が何度か流れた。
和尚の言葉を思い出し、こう返した。
「おまえこーそーなまけもの」
すると、一瞬、すべての音がピタリとやんだ。明らかに動揺した空気が流れた。
夜陰のなかで草ががさがさとなる音が響いた。
翌朝、惣太郎は昨夜の件を再度和尚に伝えに寺へ向かった。
「そうか。歌がやんだか」
和尚は満足そうにうなずいた。
「ありがとうごぜえやす。これで夜もゆっくりと眠れます」
惣太郎がそう胸をなでおろすと、果たしてそうかな、と最後に和尚は漏らした。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
日向の国(現・宮崎県)の北の山奥に惣太郎という怠けものがいた。その村で惣太郎の怠けは有名で、誰一人、仕事の話をもってくることがなかった。心根は優しい男だった。
ある夜、貯えの米も尽き欠け腹をすかしながら惣太郎が囲炉裏端でうとうと寝ていた。
「寒くなった」
小便がしたくなり目が覚めた。あたりを見回すと、風が吹き込み、囲炉裏の火を消していた。
外の便所へ向かうと、庭先から不気味な声が聞こえてくる。
「そ~たろ~はなまけもの」
と風にゆられて聞こえてくる。
びくりとし、耳を澄ませ、立ち止まるとやはり、「そ~たろ~はなまけもの」と響いてきた。
暗闇のどこから声がするのか、あたりを見回したが誰もいない。惣太郎は恐怖で身が縮み部屋に逃げ帰った。恐ろしくなりそのまま頭から布団の中にもぐり込み、朝まで、念仏を唱え、ガタガタと震えた。
翌朝、惣太郎は村一番の物知りの念仏寺の坊主のところへ足を向けた。
昨夜の話をすると、老僧は、笑い声をあげ、それはたぬきか成仏できない霊に違いない、と言った。
「和尚様、どうすれば防げましょう?」
「今日もそのような歌声が聞こえたら、こういえばよい。おまえこーそー怠けもの」
「そうすると、どうなりましょう?」
「相手は、お前がおびえると思っているのに、同じ言葉を返してくるので、違うことをしてこよう」
「それでは解決になっていないのでは」
「そうじゃな。しかし、相手の出方を見る、というのも兵法では重要なこと」
算学や兵法にも詳しい和尚は、頷いた。
とりあえず家に戻った。
日向の国(現・宮崎県)の北の山奥に惣太郎という怠けものがいた。その村で惣太郎の怠けは有名で、誰一人、仕事の話をもってくることがなかった。心根は優しい男だった。
ある夜、貯えの米も尽き欠け腹をすかしながら惣太郎が囲炉裏端でうとうと寝ていた。
「寒くなった」
小便がしたくなり目が覚めた。あたりを見回すと、風が吹き込み、囲炉裏の火を消していた。
外の便所へ向かうと、庭先から不気味な声が聞こえてくる。
「そ~たろ~はなまけもの」
と風にゆられて聞こえてくる。
びくりとし、耳を澄ませ、立ち止まるとやはり、「そ~たろ~はなまけもの」と響いてきた。
暗闇のどこから声がするのか、あたりを見回したが誰もいない。惣太郎は恐怖で身が縮み部屋に逃げ帰った。恐ろしくなりそのまま頭から布団の中にもぐり込み、朝まで、念仏を唱え、ガタガタと震えた。
翌朝、惣太郎は村一番の物知りの念仏寺の坊主のところへ足を向けた。
昨夜の話をすると、老僧は、笑い声をあげ、それはたぬきか成仏できない霊に違いない、と言った。
「和尚様、どうすれば防げましょう?」
「今日もそのような歌声が聞こえたら、こういえばよい。おまえこーそー怠けもの」
「そうすると、どうなりましょう?」
「相手は、お前がおびえると思っているのに、同じ言葉を返してくるので、違うことをしてこよう」
「それでは解決になっていないのでは」
「そうじゃな。しかし、相手の出方を見る、というのも兵法では重要なこと」
算学や兵法にも詳しい和尚は、頷いた。
とりあえず家に戻った。
https://mnk-news.net/images/logo.png
名字・名前・家系図/家紋ニュース
《F(エフ)》