仲の良い漁師(3)
仲の良い漁師(3)
2024/01/16(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
そんなことで、舌を引き抜かれてたまるか、と理不尽な理由に承服できず、震える声でこう伝えた。
「わ、わかりました。閻魔様。落ち着いてください。閻魔様がそうおっしゃるならしかたございません」
「殊勝だな」
「しかし、自分は、地獄に行く前に、極楽を一度だけ見てみたいと思っておりやす。一瞬だけ、のぞかせていただくことはできませんでしょうか?」
「ふ、よかろう。一目見せたら、その舌をこの頑丈な鋏で引き千切ってやるから覚悟せよ」
閻魔大王が、握った大きな鉄鋏をかちかちと鳴らしていた。
そのまま、鬼に連れられて極楽の色鮮やかな門の前に吾作も連れていかれた。
「ひとめだけだぞ」
鬼が重い門を押しながら、吾作から手を放したその瞬間だった。開いた狭い隙間を抜け、するりと吾作の身体が横滑りした。
まんまと極楽の世界に入ることに成功した。
ちょうどその時間、日暮れの鐘が鳴り響き、鉄門が轟音をあげ、閉じ始めた。
門の向こう側で、あわてふためく鬼の表情が見えた。腕が吾作の襟もとに、ぐわりと伸びてきたが、咄嗟にかわし、吾作はこう言い放った。
「閻魔が怖くて漁師ができるか! 地獄も極楽も己次第じゃ」
その瞬間、なぜか、閉じかけた門の動きがぴたりと停まった。そして逆に、開きはじめた。
「吾作、急げ」
背後で懐かしい声が聞こえた。振り返ると源八が待ってくれていた。
源八が自分の持っていた杖を、鬼のいる方角に投げつけると、今度は再び、門が閉まり始めた。
口惜しそうな鬼の赤ら顔がみえなくなり、地獄の門はついに固く閉じてしまった。
朝まで開かないその分厚い門の奥で、鬼が地団駄を踏んでいるようだった。
ようやく諦めた様子が、雰囲気で伝わってきた。
門がこれ以上開くことなく閉まり、額の汗をぬぐいほっとしていると、青空が広がり澄み切っている世界が視界に飛び込んできた。
「いよいよ極楽浄土か」
吾作は待っていた源八と笑いながら肩をたたきあい、無事に揃って、極楽の方角へと足を向けた。
だがまだ二人は知らない。
極楽に到着するその先に、もうひとつ、双子の閻魔大王の座る最終関門が待ち構えていることを。
了
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
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そんなことで、舌を引き抜かれてたまるか、と理不尽な理由に承服できず、震える声でこう伝えた。
「わ、わかりました。閻魔様。落ち着いてください。閻魔様がそうおっしゃるならしかたございません」
「殊勝だな」
「しかし、自分は、地獄に行く前に、極楽を一度だけ見てみたいと思っておりやす。一瞬だけ、のぞかせていただくことはできませんでしょうか?」
「ふ、よかろう。一目見せたら、その舌をこの頑丈な鋏で引き千切ってやるから覚悟せよ」
閻魔大王が、握った大きな鉄鋏をかちかちと鳴らしていた。
そのまま、鬼に連れられて極楽の色鮮やかな門の前に吾作も連れていかれた。
「ひとめだけだぞ」
鬼が重い門を押しながら、吾作から手を放したその瞬間だった。開いた狭い隙間を抜け、するりと吾作の身体が横滑りした。
まんまと極楽の世界に入ることに成功した。
ちょうどその時間、日暮れの鐘が鳴り響き、鉄門が轟音をあげ、閉じ始めた。
門の向こう側で、あわてふためく鬼の表情が見えた。腕が吾作の襟もとに、ぐわりと伸びてきたが、咄嗟にかわし、吾作はこう言い放った。
「閻魔が怖くて漁師ができるか! 地獄も極楽も己次第じゃ」
その瞬間、なぜか、閉じかけた門の動きがぴたりと停まった。そして逆に、開きはじめた。
「吾作、急げ」
背後で懐かしい声が聞こえた。振り返ると源八が待ってくれていた。
源八が自分の持っていた杖を、鬼のいる方角に投げつけると、今度は再び、門が閉まり始めた。
口惜しそうな鬼の赤ら顔がみえなくなり、地獄の門はついに固く閉じてしまった。
朝まで開かないその分厚い門の奥で、鬼が地団駄を踏んでいるようだった。
ようやく諦めた様子が、雰囲気で伝わってきた。
門がこれ以上開くことなく閉まり、額の汗をぬぐいほっとしていると、青空が広がり澄み切っている世界が視界に飛び込んできた。
「いよいよ極楽浄土か」
吾作は待っていた源八と笑いながら肩をたたきあい、無事に揃って、極楽の方角へと足を向けた。
だがまだ二人は知らない。
極楽に到着するその先に、もうひとつ、双子の閻魔大王の座る最終関門が待ち構えていることを。
了
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そんなことで、舌を引き抜かれてたまるか、と理不尽な理由に承服できず、震える声でこう伝えた。
「わ、わかりました。閻魔様。落ち着いてください。閻魔様がそうおっしゃるならしかたございません」
「殊勝だな」
「しかし、自分は、地獄に行く前に、極楽を一度だけ見てみたいと思っておりやす。一瞬だけ、のぞかせていただくことはできませんでしょうか?」
「ふ、よかろう。一目見せたら、その舌をこの頑丈な鋏で引き千切ってやるから覚悟せよ」
閻魔大王が、握った大きな鉄鋏をかちかちと鳴らしていた。
そのまま、鬼に連れられて極楽の色鮮やかな門の前に吾作も連れていかれた。
「ひとめだけだぞ」
鬼が重い門を押しながら、吾作から手を放したその瞬間だった。開いた狭い隙間を抜け、するりと吾作の身体が横滑りした。
そんなことで、舌を引き抜かれてたまるか、と理不尽な理由に承服できず、震える声でこう伝えた。
「わ、わかりました。閻魔様。落ち着いてください。閻魔様がそうおっしゃるならしかたございません」
「殊勝だな」
「しかし、自分は、地獄に行く前に、極楽を一度だけ見てみたいと思っておりやす。一瞬だけ、のぞかせていただくことはできませんでしょうか?」
「ふ、よかろう。一目見せたら、その舌をこの頑丈な鋏で引き千切ってやるから覚悟せよ」
閻魔大王が、握った大きな鉄鋏をかちかちと鳴らしていた。
そのまま、鬼に連れられて極楽の色鮮やかな門の前に吾作も連れていかれた。
「ひとめだけだぞ」
鬼が重い門を押しながら、吾作から手を放したその瞬間だった。開いた狭い隙間を抜け、するりと吾作の身体が横滑りした。
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