粋な貧乏神(3)
粋な貧乏神(3)
2023/11/14(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
次の大晦日、いじわる夫婦は、飯も食わずに、寒風が唸り声をあげる外を、隙間からのぞいていた。
すると、長屋の前を今にも倒れそうに、華奢な老人がふらふらと歩いてくるのがみえた。
「来たぞ。あいつに違いない」
佐平治は小躍りした。
二人の部屋の前を通過しそうになったので、「待っていました」と勢いよく、佐平治が戸を開けた。
「ご老人。ひと晩の宿をお探しでしょう。ぜひ、こちらへ」
佐平治が大声で言い放つと、驚いた老人がよろめいた。その細い腕を強引に握り、痛がる老人を無視し、家の中に引っ張り込んだ。
夫婦は、迷惑顔の老人を強引に家に引きいれ、できるかぎりの歓待をした。
隣の家から奪ったしょうゆで煮つけた小魚や白い飯。ほかにも雑煮やそばまで用意していた。
老人は細い体のせいか、あまり箸をつけなかった。
それではとっとと眠らせよう、と酒をたらふく飲ませた。次第に、朦朧となりはじめた老人に向かい、頭をゆすった。
「早く布団を敷け」とおすえに合図を送る。酔っぱらって眠る前には、願いを伝えておかねばならない。
老人が聞いてもいないのに、
「私たち夫婦は大金持ちになりたい。金銀財宝が家を押しつぶすほどでもかまいません」
と佐平治は強欲に伝えた。
そして、老人を強引に眠らせることに成功し、胸が高鳴るのを押し殺し、二人も布団に入り、目をつぶった。
夢のなかは荒れ狂う嵐だった。二人はぼんやり立っていた。
ふいに華奢な神様が目前に出現した。
「お前たちは、大金持ちになりたいらしいな」
「はい」
二人は笑顔で口をそろえる。ここまではほぼ、隣の夫婦が語っていたのと同じ状況だ。
「では、いまから私が言うとおりにせよ」
「はい」
「この先に川が二本流れている。そのうち、汚れた川が流れておる。その場所ではない川で体を清めるのだ。七度水を浴びよ。良いな」
「わかりました」
二人は喜び勇んで川に向かった。胸が躍る。
ひとつめの川は陽の光が邪魔して、汚く見えた。
「この先の川であろう」
佐平治は吐き捨て、その先に向かうと、そこに大きな川が登場した。
「これに違いない」
二人は真っ裸になり、ジャバジャバと川に入って、水を七回浴びた。心なしか、体がかゆくなった。
そしてそこで、目が覚めた。
二人は勇んで互いの顔を見合わせた。
同時に大きな悲鳴をあげた。
両方の顔の皮膚が赤く爛れ、目は落ちくぼんでいる。唇が紫に変色し大きな蛆虫がはいつくばっているのがみえた。
「ぎゃあああ」
佐平治は自分の顔をかきむしり、外へ飛び出した。意地悪な妻も自分の顔を覆い、後を追って、通りへ飛び出した。
世間では新年が明けている。
往来を歩いている多くの人々に二人はぶつかった。
「ば、化け物がきたぞ」
とあたりが騒然となった。
二人に向かって次々と町人たちが石を投げつけてくる。
「助けてくれー」
絶叫しながら、意地悪な夫婦はその場を走り去った。
それからまもなく、その夫婦は江戸を引き払い、ひとめを避けるように山奥で暮らした。
あの晩、意地悪な夫婦が呼び入れたのは貧乏神だったのだ。
そして、夢のなかで告げられた綺麗な川はひとつめの川だったのだが、目の曇った二人にはそれがわからなかった。
粋な貧乏神だったのかもしれない。
その後まもなく、お初に子が宿り、三太と三人の家族は長屋でいつまでも幸せに暮らした、という話。
了
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
次の大晦日、いじわる夫婦は、飯も食わずに、寒風が唸り声をあげる外を、隙間からのぞいていた。
すると、長屋の前を今にも倒れそうに、華奢な老人がふらふらと歩いてくるのがみえた。
「来たぞ。あいつに違いない」
佐平治は小躍りした。
二人の部屋の前を通過しそうになったので、「待っていました」と勢いよく、佐平治が戸を開けた。
「ご老人。ひと晩の宿をお探しでしょう。ぜひ、こちらへ」
佐平治が大声で言い放つと、驚いた老人がよろめいた。その細い腕を強引に握り、痛がる老人を無視し、家の中に引っ張り込んだ。
夫婦は、迷惑顔の老人を強引に家に引きいれ、できるかぎりの歓待をした。
隣の家から奪ったしょうゆで煮つけた小魚や白い飯。ほかにも雑煮やそばまで用意していた。
老人は細い体のせいか、あまり箸をつけなかった。
それではとっとと眠らせよう、と酒をたらふく飲ませた。次第に、朦朧となりはじめた老人に向かい、頭をゆすった。
「早く布団を敷け」とおすえに合図を送る。酔っぱらって眠る前には、願いを伝えておかねばならない。
老人が聞いてもいないのに、
「私たち夫婦は大金持ちになりたい。金銀財宝が家を押しつぶすほどでもかまいません」
と佐平治は強欲に伝えた。
そして、老人を強引に眠らせることに成功し、胸が高鳴るのを押し殺し、二人も布団に入り、目をつぶった。
夢のなかは荒れ狂う嵐だった。二人はぼんやり立っていた。
ふいに華奢な神様が目前に出現した。
「お前たちは、大金持ちになりたいらしいな」
「はい」
二人は笑顔で口をそろえる。ここまではほぼ、隣の夫婦が語っていたのと同じ状況だ。
「では、いまから私が言うとおりにせよ」
「はい」
「この先に川が二本流れている。そのうち、汚れた川が流れておる。その場所ではない川で体を清めるのだ。七度水を浴びよ。良いな」
「わかりました」
二人は喜び勇んで川に向かった。胸が躍る。
ひとつめの川は陽の光が邪魔して、汚く見えた。
「この先の川であろう」
佐平治は吐き捨て、その先に向かうと、そこに大きな川が登場した。
「これに違いない」
二人は真っ裸になり、ジャバジャバと川に入って、水を七回浴びた。心なしか、体がかゆくなった。
そしてそこで、目が覚めた。
二人は勇んで互いの顔を見合わせた。
同時に大きな悲鳴をあげた。
両方の顔の皮膚が赤く爛れ、目は落ちくぼんでいる。唇が紫に変色し大きな蛆虫がはいつくばっているのがみえた。
「ぎゃあああ」
佐平治は自分の顔をかきむしり、外へ飛び出した。意地悪な妻も自分の顔を覆い、後を追って、通りへ飛び出した。
世間では新年が明けている。
往来を歩いている多くの人々に二人はぶつかった。
「ば、化け物がきたぞ」
とあたりが騒然となった。
二人に向かって次々と町人たちが石を投げつけてくる。
「助けてくれー」
絶叫しながら、意地悪な夫婦はその場を走り去った。
それからまもなく、その夫婦は江戸を引き払い、ひとめを避けるように山奥で暮らした。
あの晩、意地悪な夫婦が呼び入れたのは貧乏神だったのだ。
そして、夢のなかで告げられた綺麗な川はひとつめの川だったのだが、目の曇った二人にはそれがわからなかった。
粋な貧乏神だったのかもしれない。
その後まもなく、お初に子が宿り、三太と三人の家族は長屋でいつまでも幸せに暮らした、という話。
了
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次の大晦日、いじわる夫婦は、飯も食わずに、寒風が唸り声をあげる外を、隙間からのぞいていた。
すると、長屋の前を今にも倒れそうに、華奢な老人がふらふらと歩いてくるのがみえた。
「来たぞ。あいつに違いない」
佐平治は小躍りした。
二人の部屋の前を通過しそうになったので、「待っていました」と勢いよく、佐平治が戸を開けた。
「ご老人。ひと晩の宿をお探しでしょう。ぜひ、こちらへ」
佐平治が大声で言い放つと、驚いた老人がよろめいた。その細い腕を強引に握り、痛がる老人を無視し、家の中に引っ張り込んだ。
夫婦は、迷惑顔の老人を強引に家に引きいれ、できるかぎりの歓待をした。
隣の家から奪ったしょうゆで煮つけた小魚や白い飯。ほかにも雑煮やそばまで用意していた。
老人は細い体のせいか、あまり箸をつけなかった。
それではとっとと眠らせよう、と酒をたらふく飲ませた。次第に、朦朧となりはじめた老人に向かい、頭をゆすった。
「早く布団を敷け」とおすえに合図を送る。酔っぱらって眠る前には、願いを伝えておかねばならない。
老人が聞いてもいないのに、
「私たち夫婦は大金持ちになりたい。金銀財宝が家を押しつぶすほどでもかまいません」
と佐平治は強欲に伝えた。
そして、老人を強引に眠らせることに成功し、胸が高鳴るのを押し殺し、二人も布団に入り、目をつぶった。
次の大晦日、いじわる夫婦は、飯も食わずに、寒風が唸り声をあげる外を、隙間からのぞいていた。
すると、長屋の前を今にも倒れそうに、華奢な老人がふらふらと歩いてくるのがみえた。
「来たぞ。あいつに違いない」
佐平治は小躍りした。
二人の部屋の前を通過しそうになったので、「待っていました」と勢いよく、佐平治が戸を開けた。
「ご老人。ひと晩の宿をお探しでしょう。ぜひ、こちらへ」
佐平治が大声で言い放つと、驚いた老人がよろめいた。その細い腕を強引に握り、痛がる老人を無視し、家の中に引っ張り込んだ。
夫婦は、迷惑顔の老人を強引に家に引きいれ、できるかぎりの歓待をした。
隣の家から奪ったしょうゆで煮つけた小魚や白い飯。ほかにも雑煮やそばまで用意していた。
老人は細い体のせいか、あまり箸をつけなかった。
それではとっとと眠らせよう、と酒をたらふく飲ませた。次第に、朦朧となりはじめた老人に向かい、頭をゆすった。
「早く布団を敷け」とおすえに合図を送る。酔っぱらって眠る前には、願いを伝えておかねばならない。
老人が聞いてもいないのに、
「私たち夫婦は大金持ちになりたい。金銀財宝が家を押しつぶすほどでもかまいません」
と佐平治は強欲に伝えた。
そして、老人を強引に眠らせることに成功し、胸が高鳴るのを押し殺し、二人も布団に入り、目をつぶった。
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