名字ランキング 第5位　伊藤

名字博士と愛ちゃんが　伊藤姓について話しています。

「伊藤さんと佐藤さん、同じ○藤さんだけど関係あるの？」

「佐藤さんは奥州藤原氏にちなむが、この奥州藤原氏を興(おこ)した清衡(きよひら)は藤原秀郷の子孫といわれている。秀郷は天慶三年（九四〇）に平将門を討った関東の英雄だ。一躍武名をあげた秀郷の子孫は大いに栄えた。その一人、基清が伊勢国（三重県）に住み着いて伊勢の藤原、伊藤と名乗ったんだ。これで判る通り、佐藤さんと伊藤さんは系図上ではともに秀郷の子孫で同族関係ということになる」

「伊藤さんはどうして増えたの」

「伊藤悪七兵衛(あくしちびょうえ)景清のような豪傑が出たからさ」

「悪七って、もしかして悪党？」

「そんなこというと伊藤さんに怒られるよ。人名の悪はね、〈悪(わる)い〉という意味じゃなく、ものすごく強いときに使われたんだ。本人が名乗るというよりも、人から呼ばれているうちに名前として定着したものだろう。景清も悪七兵衛の名前にふさわしく猛者(もさ)だった。敵の鎧(よろい)の一部を素手で引きちぎったというのだから半端じゃない怪力の持ち主だ。ただし景清は平家に属していたため、壇ノ浦の戦いで捕らえられ、最後は絶食して死んでしまった」

「源平時代のスーパーマンっていうところね」

「まあ、そんな感じだ。全国各地に景清が住んでいたという地や墓があることからも、慕(した)っていた人たちが多かったことが判るし、能や浄瑠璃(じょうるり)、歌舞伎でもよく演じられたから、昔の人にとってはおなじみのヒーローだった。源義経もそうだが、人は悲劇的な人物に同情をよせる。景清も義を貫いて平家に尽くしたところが人びとの心を強く打った。とくに伊勢国（三重県）では圧倒的な人気を誇ったからね。伊勢で藤原氏にゆかりのある家は景清にあやかって伊藤と名乗ったわけだ」

「じゃ三重県には伊藤さんが多いんだ」

「日本で一番多い。次は隣の愛知県だね。愛知からは伊藤財閥が出ている」

 

「伊藤財閥？」

「松坂屋や三菱東京ＵＦＪ銀行のルーツとなった財閥さ。初代は織田信長の家臣だった伊藤蘭丸だ。伊藤さんは経済に強くて大商人や大地主になった家が多い。滋賀県出身の伊藤忠兵衛は伊藤忠商事と丸紅という二大商社を創業したし、新潟市江南区横越の伊藤家は日本屈指の大地主として有名だ。最盛期には六四ヶ村で一、三七〇ヘクタールの田畑を持ち、二、八〇〇人もの小作人を抱えていた。その屋敷もすごい。敷地は八、八〇〇坪で建坪は一、二〇〇坪、部屋数は六五もあった。日本最大の住宅といわれている」

「わあ～そんなお家(うち)に嫁ぎたい！」

「いまは北方文化博物館として利用されているから、まずは訪問してみたら（苦笑）。政治家だと初代総理の伊藤博文だね。伊藤は林家に生まれたが、父親の十蔵が伊藤家の養子になったので改姓した。このとき家紋も上り藤に変えている。この上り藤という家紋は伊勢伊藤氏の代表家紋だ。この家紋を使っている伊藤さんは、まず間違いなく伊勢伊藤氏ゆかりの家だと思っていい」