粋な貧乏神(2)
粋な貧乏神(2)
2023/11/07(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
お日様に照らされた眩しい場所にふたりは立っていた。夢の中だろうと、どこかで夫婦は気づいていた。
急に目の前に神様が現れてこういった。
「お前たちは、若さがほしいらしいな」
「はい」
二人は口をそろえた。
「では、いまから私が言うとおりにせよ。この先に綺麗な川が流れておる。その場所で、体を清めるのだ。七度水を浴びよ。良いな」
そう言い残すと、煙と共に神様が消えた。
その後二人は、言われるがまま輝くような美しい川にたどり着き、水を七回浴びた。
そこで朝がきて、目が覚めた。
ふたりは、がばりと布団から跳ね起きた。
「おい、お初。新年から不思議な夢を見た」
呆然と天井を見上げ、三太がつぶやいた。
「わたしもですよ。いま、夢の中で光り輝く水を浴びてきました」
そういって、隣の三太を見て、あっと驚きの声をあげた。
「あ、あなた、どうしたの。顔が」
「顔がどうした?」
「わ、若返っているように見えます」
三太は不思議そうな表情で、お初に目を向けた。そこで驚いた声を出した。
お初の表情も、二十(はたち)の頃のように透き通っている。美しい容貌に変わっていた。
二人はその場で互いの肩を抱き合った。
「これは夢だろうか」
何度も三太とお初はそう言い、それぞれ身体を確認した。
どう見ても、双方ともに、三十年ほど若返ったようにしかみえなかった。
「そういえば、昨晩お泊めしたご老人はどこにいったのかしら?」
ふとお初が部屋の異変に気づいた。
「おかしいな。寝床にもいない。布団も冷たいぞ」
そこで、三太は、ふと思い至った。
「そういえば、夢の中で目にした神様だが、あの老人に似ていた……気がする」
「わたしにもそのような記憶が」
「ひょっとしたら、あの老人は福の神ではないだろうか。だとしたら、一夜の宿と飯の礼に」
「新年から、福が神様より授けられたのかもしれませんね」
二人は急いで戸を開け、外を確認したが、やはり老人の姿はどこにも見当たらなかった。
新年の眩しい日差しだけがふたりを明るく照らしていた。
その話を横の部屋で壁に耳をあて、息を殺しながら聞いていたものがいた。
同じ長屋に住む、意地の悪い夫婦だった。名は佐平治とおすえと言った。
「おい、聞いたか」
「はい」
「神様を泊めると願いが叶うらしい」
「昨晩、うちの戸を激しく叩いたものがいましたが」
「隙間から目にしたのは、怪しそうな爺(じじい)だった」
「そ知らぬ顔で見過ごしましたけど、あれは神様だったのですかね?」
「残念なことをした。一世一代の失敗。戸を開ければよかった」
「まだあきらめる必要はありません。また次に来るかもしれないですから」
「今度やってくる機会があったら、ぜひ、一晩の宿を恵んでやろう」
二人は神様の登場を待った。しかし、ほぼ一年、宿を求めて、老人らしきものは長屋にやってこなかった。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
お日様に照らされた眩しい場所にふたりは立っていた。夢の中だろうと、どこかで夫婦は気づいていた。
急に目の前に神様が現れてこういった。
「お前たちは、若さがほしいらしいな」
「はい」
二人は口をそろえた。
「では、いまから私が言うとおりにせよ。この先に綺麗な川が流れておる。その場所で、体を清めるのだ。七度水を浴びよ。良いな」
そう言い残すと、煙と共に神様が消えた。
その後二人は、言われるがまま輝くような美しい川にたどり着き、水を七回浴びた。
そこで朝がきて、目が覚めた。
ふたりは、がばりと布団から跳ね起きた。
「おい、お初。新年から不思議な夢を見た」
呆然と天井を見上げ、三太がつぶやいた。
「わたしもですよ。いま、夢の中で光り輝く水を浴びてきました」
そういって、隣の三太を見て、あっと驚きの声をあげた。
「あ、あなた、どうしたの。顔が」
「顔がどうした?」
「わ、若返っているように見えます」
三太は不思議そうな表情で、お初に目を向けた。そこで驚いた声を出した。
お初の表情も、二十(はたち)の頃のように透き通っている。美しい容貌に変わっていた。
二人はその場で互いの肩を抱き合った。
「これは夢だろうか」
何度も三太とお初はそう言い、それぞれ身体を確認した。
どう見ても、双方ともに、三十年ほど若返ったようにしかみえなかった。
「そういえば、昨晩お泊めしたご老人はどこにいったのかしら?」
ふとお初が部屋の異変に気づいた。
「おかしいな。寝床にもいない。布団も冷たいぞ」
そこで、三太は、ふと思い至った。
「そういえば、夢の中で目にした神様だが、あの老人に似ていた……気がする」
「わたしにもそのような記憶が」
「ひょっとしたら、あの老人は福の神ではないだろうか。だとしたら、一夜の宿と飯の礼に」
「新年から、福が神様より授けられたのかもしれませんね」
二人は急いで戸を開け、外を確認したが、やはり老人の姿はどこにも見当たらなかった。
新年の眩しい日差しだけがふたりを明るく照らしていた。
その話を横の部屋で壁に耳をあて、息を殺しながら聞いていたものがいた。
同じ長屋に住む、意地の悪い夫婦だった。名は佐平治とおすえと言った。
「おい、聞いたか」
「はい」
「神様を泊めると願いが叶うらしい」
「昨晩、うちの戸を激しく叩いたものがいましたが」
「隙間から目にしたのは、怪しそうな爺(じじい)だった」
「そ知らぬ顔で見過ごしましたけど、あれは神様だったのですかね?」
「残念なことをした。一世一代の失敗。戸を開ければよかった」
「まだあきらめる必要はありません。また次に来るかもしれないですから」
「今度やってくる機会があったら、ぜひ、一晩の宿を恵んでやろう」
二人は神様の登場を待った。しかし、ほぼ一年、宿を求めて、老人らしきものは長屋にやってこなかった。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
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お日様に照らされた眩しい場所にふたりは立っていた。夢の中だろうと、どこかで夫婦は気づいていた。
急に目の前に神様が現れてこういった。
「お前たちは、若さがほしいらしいな」
「はい」
二人は口をそろえた。
「では、いまから私が言うとおりにせよ。この先に綺麗な川が流れておる。その場所で、体を清めるのだ。七度水を浴びよ。良いな」
そう言い残すと、煙と共に神様が消えた。
その後二人は、言われるがまま輝くような美しい川にたどり着き、水を七回浴びた。
そこで朝がきて、目が覚めた。
ふたりは、がばりと布団から跳ね起きた。
「おい、お初。新年から不思議な夢を見た」
呆然と天井を見上げ、三太がつぶやいた。
「わたしもですよ。いま、夢の中で光り輝く水を浴びてきました」
そういって、隣の三太を見て、あっと驚きの声をあげた。
「あ、あなた、どうしたの。顔が」
「顔がどうした?」
「わ、若返っているように見えます」
三太は不思議そうな表情で、お初に目を向けた。そこで驚いた声を出した。
お日様に照らされた眩しい場所にふたりは立っていた。夢の中だろうと、どこかで夫婦は気づいていた。
急に目の前に神様が現れてこういった。
「お前たちは、若さがほしいらしいな」
「はい」
二人は口をそろえた。
「では、いまから私が言うとおりにせよ。この先に綺麗な川が流れておる。その場所で、体を清めるのだ。七度水を浴びよ。良いな」
そう言い残すと、煙と共に神様が消えた。
その後二人は、言われるがまま輝くような美しい川にたどり着き、水を七回浴びた。
そこで朝がきて、目が覚めた。
ふたりは、がばりと布団から跳ね起きた。
「おい、お初。新年から不思議な夢を見た」
呆然と天井を見上げ、三太がつぶやいた。
「わたしもですよ。いま、夢の中で光り輝く水を浴びてきました」
そういって、隣の三太を見て、あっと驚きの声をあげた。
「あ、あなた、どうしたの。顔が」
「顔がどうした?」
「わ、若返っているように見えます」
三太は不思議そうな表情で、お初に目を向けた。そこで驚いた声を出した。
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