金太とたぬき母(1)
金太とたぬき母(1)(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
昔、備中の国(岡山県)高梁川の上流の山奥に、六兵衛という年老いた父親と親思いの一人息子の金太(きんた)が住んでいた。家は竹林のそばにあった。
金太は十三だった。
三年前、母親は若くして病で死んでしまった。
父親は大変な酒好きで知り合いの婚儀や葬儀があると、必ず顔を真っ赤にして酔っ払って帰ってきた。
酒が女房を失った寂しさを紛らわすものであることを息子は知っていた。
「また、土産をやられたわい」
父親が酒臭い息で家に戻った。
山に住んでいる悪戯好きの狸が、竜に化けたり、鬼に化けたりして、父親をおどかし、土産を奪うのだ。
先ほども遭遇したという。
「今日は知り合いの和尚に化けておった。巧妙な語り口で布施まで要求するから、つい、土産を渡してしまった」
「いつも酔った姿で歩いているからやられるのです」
息子の金太は笑った。
酔って戻ってくる父は頻繁に道の途中で化かされては、なにかを失くして戻ってくる日が増えた。
次第に金太は父親を可哀相に思った。
ある日昼間から、父親が村の会合で庄屋の家に出かけねばならない日があった。
金太が畑から戻ると、父親はすでに酒を食らって、囲炉裏のそばでうたた寝している。大きな徳利が転がっているのがみえた。
気持ちよさそうな顔だった。
だいぶ酒を過ごしたようで、こんなときは、ちょっとやそっとでは、起きないことを知っている。
これまでも代わりに金太が会合へ足を向けることもあった。
「よし、今日はわたしが会合に出て、その帰りに、狸退治でもしてやろう」
眠っている父親に布団をかけ、息子は代わりに家を出た。
なぜか玄関で、背中に大きなカゴを背負った。
山道を抜ける途中の草むらで、息子がカゴを背負って歩いていくのを見ていたものがいた。
いたずら狸だ。
「これはひとつ、帰りにあいつを化かしてやるか」
手ぐすね引いて、狸は息子の帰りを待っていた。
一刻(二時間)ほどするとカゴを背負った息子が家の方に戻ってきた。
「よしよし戻ってきた。今日はだいぶ寒かった」
そういいながら草むらで狸は震えていた。まんまるの月と満天の星がすでに山の上に出ている。
つづく
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昔、備中の国(岡山県)高梁川の上流の山奥に、六兵衛という年老いた父親と親思いの一人息子の金太(きんた)が住んでいた。家は竹林のそばにあった。
金太は十三だった。
三年前、母親は若くして病で死んでしまった。
父親は大変な酒好きで知り合いの婚儀や葬儀があると、必ず顔を真っ赤にして酔っ払って帰ってきた。
酒が女房を失った寂しさを紛らわすものであることを息子は知っていた。
「また、土産をやられたわい」
父親が酒臭い息で家に戻った。
山に住んでいる悪戯好きの狸が、竜に化けたり、鬼に化けたりして、父親をおどかし、土産を奪うのだ。
先ほども遭遇したという。
「今日は知り合いの和尚に化けておった。巧妙な語り口で布施まで要求するから、つい、土産を渡してしまった」
「いつも酔った姿で歩いているからやられるのです」
息子の金太は笑った。
酔って戻ってくる父は頻繁に道の途中で化かされては、なにかを失くして戻ってくる日が増えた。
次第に金太は父親を可哀相に思った。