巫女の呪いと雀(2)
巫女の呪いと雀(2)
2023/08/22(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
その晩から、巫女の行動は奇怪なものに変わった。
夜が更けると湯治場へ足を運び、卵の殻を温泉場に持っていき、なんらかの秘術で、殻の中に大量の湯を吸い込ませた。その殻を手に持ち、山を越え、谷川の近くに捨てた。
その行動に巫女が数年の歳月を捧げると、不思議と湯沢には湯が次第に湧出しなくなった。代わりに谷川のほとりに湯がたまり、温泉が噴き出しはじめた。
巫女は寿命が尽きる直前、家に集まった村方三役を前に、こう漏らした。
「湯沢の地から温泉をなくしてやると決めたのじゃ。湯がこの地にあるからせいが殺された。そして、わしは、湯沢の人間を子々孫々、末代まで呪うぞ。覚悟せよ」
そこで、村人は気づいた。湯沢の温泉が出なくなった理由に思い至った。
一同、青ざめた。
次の年の夏になった。
湯量は巫女の遺言通り、減り続けた。が、引き換えたように、なぜか作物が豊作になった。
村人は、巫女の呪いは村にはきかなかったのだ、と喜んだ。
「巫女が、この村から湯を失わせたが、神様はこの村に、豊かな恵みを残してくれた」
誰もがうれしくて夏祭りに笛の音とともに踊り狂った。
だが、喜びは束の間だった。
「て、てえへんだ。山山の至る場所から、この村に大量の雀が集まってきている」
清兵衛が転がるように名主の家にやってきた。田んぼの方角を指さし叫んだ。
「稲穂を次々に鳥が食い荒らしているじゃと」
名主が目を見開いた。
「へい。集団で食いちぎっては、風のように去っていくんでやす」
その繰り返しが、毎日続いた。村人は数百匹と襲ってくる群が恐ろしくて、追い払うこともできずにいた。気づけば、豊作だった田圃は見る影もなくなった。
「名主さあ、雀を一匹、捕まえやしたあ」
若い村人が名主の土間に駆け込んできた。手にはぐったりした雀を握りつぶしている。しかし、男の表情は暗く、恐れおののいていた。
捕まえた雀を偉い大人たちが見下ろすと、一同が、あっ、と声をあげた。
「……片目がつぶれている」
清兵衛がそう叫び、その場で震え始めた。自分の犯した罪の重さを思い出したのだ。
誰もが巫女の最後の言葉とせいを脳裏に描いた。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
その晩から、巫女の行動は奇怪なものに変わった。
夜が更けると湯治場へ足を運び、卵の殻を温泉場に持っていき、なんらかの秘術で、殻の中に大量の湯を吸い込ませた。その殻を手に持ち、山を越え、谷川の近くに捨てた。
その行動に巫女が数年の歳月を捧げると、不思議と湯沢には湯が次第に湧出しなくなった。代わりに谷川のほとりに湯がたまり、温泉が噴き出しはじめた。
巫女は寿命が尽きる直前、家に集まった村方三役を前に、こう漏らした。
「湯沢の地から温泉をなくしてやると決めたのじゃ。湯がこの地にあるからせいが殺された。そして、わしは、湯沢の人間を子々孫々、末代まで呪うぞ。覚悟せよ」
そこで、村人は気づいた。湯沢の温泉が出なくなった理由に思い至った。
一同、青ざめた。
次の年の夏になった。
湯量は巫女の遺言通り、減り続けた。が、引き換えたように、なぜか作物が豊作になった。
村人は、巫女の呪いは村にはきかなかったのだ、と喜んだ。
「巫女が、この村から湯を失わせたが、神様はこの村に、豊かな恵みを残してくれた」
誰もがうれしくて夏祭りに笛の音とともに踊り狂った。
だが、喜びは束の間だった。
「て、てえへんだ。山山の至る場所から、この村に大量の雀が集まってきている」
清兵衛が転がるように名主の家にやってきた。田んぼの方角を指さし叫んだ。
「稲穂を次々に鳥が食い荒らしているじゃと」
名主が目を見開いた。
「へい。集団で食いちぎっては、風のように去っていくんでやす」
その繰り返しが、毎日続いた。村人は数百匹と襲ってくる群が恐ろしくて、追い払うこともできずにいた。気づけば、豊作だった田圃は見る影もなくなった。
「名主さあ、雀を一匹、捕まえやしたあ」
若い村人が名主の土間に駆け込んできた。手にはぐったりした雀を握りつぶしている。しかし、男の表情は暗く、恐れおののいていた。
捕まえた雀を偉い大人たちが見下ろすと、一同が、あっ、と声をあげた。
「……片目がつぶれている」
清兵衛がそう叫び、その場で震え始めた。自分の犯した罪の重さを思い出したのだ。
誰もが巫女の最後の言葉とせいを脳裏に描いた。
つづく
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その晩から、巫女の行動は奇怪なものに変わった。
夜が更けると湯治場へ足を運び、卵の殻を温泉場に持っていき、なんらかの秘術で、殻の中に大量の湯を吸い込ませた。その殻を手に持ち、山を越え、谷川の近くに捨てた。
その行動に巫女が数年の歳月を捧げると、不思議と湯沢には湯が次第に湧出しなくなった。代わりに谷川のほとりに湯がたまり、温泉が噴き出しはじめた。
巫女は寿命が尽きる直前、家に集まった村方三役を前に、こう漏らした。
「湯沢の地から温泉をなくしてやると決めたのじゃ。湯がこの地にあるからせいが殺された。そして、わしは、湯沢の人間を子々孫々、末代まで呪うぞ。覚悟せよ」
そこで、村人は気づいた。湯沢の温泉が出なくなった理由に思い至った。
一同、青ざめた。
その晩から、巫女の行動は奇怪なものに変わった。
夜が更けると湯治場へ足を運び、卵の殻を温泉場に持っていき、なんらかの秘術で、殻の中に大量の湯を吸い込ませた。その殻を手に持ち、山を越え、谷川の近くに捨てた。
その行動に巫女が数年の歳月を捧げると、不思議と湯沢には湯が次第に湧出しなくなった。代わりに谷川のほとりに湯がたまり、温泉が噴き出しはじめた。
巫女は寿命が尽きる直前、家に集まった村方三役を前に、こう漏らした。
「湯沢の地から温泉をなくしてやると決めたのじゃ。湯がこの地にあるからせいが殺された。そして、わしは、湯沢の人間を子々孫々、末代まで呪うぞ。覚悟せよ」
そこで、村人は気づいた。湯沢の温泉が出なくなった理由に思い至った。
一同、青ざめた。
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