小僧と三つのお札(3)
小僧と三つのお札(3)
2024/05/07(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
山を覆いつくした赤い色がみるみる黒い灰に変わり、白い煙があがった。
それをみて、もうだめか、と観念しかけた。そのとき、ようやく前方に寺の黄色い光が小さくみえてきた。
「た、たすけてください」
小僧はかすれた声を漏らした。生きた心地がしなかった。ひたすらに足を前後に出した。もう疲れ果て、呼吸も満足にできていない。乱れた息が、たどたどしくなってきた。そこでようやく寺の門にたどり着いた。
「待たんか、小僧おおおおおおお」
後方で絶叫する山姥の声が響く。
「和尚様、栄鏡です。開けてください」
和尚の住む庫裡の戸を激しく叩いたが、和尚様はなかなか開けてくれなかった。
「和尚様、開けてください。山姥がすぐそこまで来ているのです。いままでの乱暴な私をお許しください。これからは、心を入れ替えしっかりと修行にうちこみます」
涙声で叫ぶと、ようやく和尚は戸を開けてくれた。
「中に入れ」
そういい、和尚は小僧を奥の部屋に隠した。
するとすぐに、真っ赤な口を開け、甲高い声の山姥が寺にやってきた。
「小僧を出さんか」
山姥が腕を振り上げた。
「小僧など知らないわ」
和尚は平然と答える。
「嘘をつくな。この寺に入り込むのをしっかりと見たぞ」
「そうか」
「かくまうとお前も容赦せんぞ」
そういって息をあげながら、鎌を振り上げた。
「よかろう。教えて進ぜよう。しかし、わしと勝負しておまえさんが勝ったら、小僧の居場所を教える」
そのやりとりを耳にし、小僧は押入れの中でぶるぶると震えていた。和尚様の言いつけを守らかなったことで、とんでもない事態を引き起こした。今までも和尚様の制止を無視し、陰で弱いものいじめをした。弱いものに発したものが、いま報いとなって我が身に返る。強いものから受ける恐怖の因果を痛感し、心の底から反省した。
「わしは修行により、秘儀を習得している。おまえと技比べ(わざくらべ)でもしよう。わしより強いものに変幻できるか」
そう和尚が叫ぶと、煙とともに和尚は大きな虎に姿を変えた。唸り声をあげた。
「そんなもの簡単ぞ」
山姥が大蛇にかわった。ひゅるひゅると舌を出し入れし、和尚を威嚇する。
「次は小さいもの。わしはこんなものにも変幻できるぞ」
そう言い、石ころに変貌した。
「たやすいわ」
山姥が豆粒に変わった。
その瞬間、和尚は人間の姿に戻り、豆粒をかかとで思い切り踏みつぶした。
ぐしゃりと豆が割れ、それっきり、山姥の声はしなくなった。
その割れた豆を拾い、奥の部屋へ足早に戻り、焼いていた餅にくるんだ。
「栄鏡、出てこい」
「は、はい」
ぶるぶると震えながら、ふすまをあけ、押入れから、小僧はおしりから出てきた。
「今回の件でこりたはずじゃ、腹も減っているだろう、まずはこれを食べよ」
そういって、手に持った白い焼餅を手渡した。
「申しわけございません。和尚様。今後は弱い者にも優しくいたします。立派な人間となるため、修行に精一杯打ち込みます」
泣きはらした真っ赤な目で、小僧は、何度も和尚に詫びを入れ、餅を食べた。
「う、うまいです。和尚様」
和尚は優しい目で、声をあげ笑っていた。
それきり、小僧は山姥の話をすることもなく、弱い者いじめをせず、修行に真剣に打ち込み、立派な坊主となったという話。
了
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
山を覆いつくした赤い色がみるみる黒い灰に変わり、白い煙があがった。
それをみて、もうだめか、と観念しかけた。そのとき、ようやく前方に寺の黄色い光が小さくみえてきた。
「た、たすけてください」
小僧はかすれた声を漏らした。生きた心地がしなかった。ひたすらに足を前後に出した。もう疲れ果て、呼吸も満足にできていない。乱れた息が、たどたどしくなってきた。そこでようやく寺の門にたどり着いた。
「待たんか、小僧おおおおおおお」
後方で絶叫する山姥の声が響く。
「和尚様、栄鏡です。開けてください」
和尚の住む庫裡の戸を激しく叩いたが、和尚様はなかなか開けてくれなかった。
「和尚様、開けてください。山姥がすぐそこまで来ているのです。いままでの乱暴な私をお許しください。これからは、心を入れ替えしっかりと修行にうちこみます」
涙声で叫ぶと、ようやく和尚は戸を開けてくれた。
「中に入れ」
そういい、和尚は小僧を奥の部屋に隠した。
するとすぐに、真っ赤な口を開け、甲高い声の山姥が寺にやってきた。
「小僧を出さんか」
山姥が腕を振り上げた。
「小僧など知らないわ」
和尚は平然と答える。
「嘘をつくな。この寺に入り込むのをしっかりと見たぞ」
「そうか」
「かくまうとお前も容赦せんぞ」
そういって息をあげながら、鎌を振り上げた。
「よかろう。教えて進ぜよう。しかし、わしと勝負しておまえさんが勝ったら、小僧の居場所を教える」
そのやりとりを耳にし、小僧は押入れの中でぶるぶると震えていた。和尚様の言いつけを守らかなったことで、とんでもない事態を引き起こした。今までも和尚様の制止を無視し、陰で弱いものいじめをした。弱いものに発したものが、いま報いとなって我が身に返る。強いものから受ける恐怖の因果を痛感し、心の底から反省した。
「わしは修行により、秘儀を習得している。おまえと技比べ(わざくらべ)でもしよう。わしより強いものに変幻できるか」
そう和尚が叫ぶと、煙とともに和尚は大きな虎に姿を変えた。唸り声をあげた。
「そんなもの簡単ぞ」
山姥が大蛇にかわった。ひゅるひゅると舌を出し入れし、和尚を威嚇する。
「次は小さいもの。わしはこんなものにも変幻できるぞ」
そう言い、石ころに変貌した。
「たやすいわ」
山姥が豆粒に変わった。
その瞬間、和尚は人間の姿に戻り、豆粒をかかとで思い切り踏みつぶした。
ぐしゃりと豆が割れ、それっきり、山姥の声はしなくなった。
その割れた豆を拾い、奥の部屋へ足早に戻り、焼いていた餅にくるんだ。
「栄鏡、出てこい」
「は、はい」
ぶるぶると震えながら、ふすまをあけ、押入れから、小僧はおしりから出てきた。
「今回の件でこりたはずじゃ、腹も減っているだろう、まずはこれを食べよ」
そういって、手に持った白い焼餅を手渡した。
「申しわけございません。和尚様。今後は弱い者にも優しくいたします。立派な人間となるため、修行に精一杯打ち込みます」
泣きはらした真っ赤な目で、小僧は、何度も和尚に詫びを入れ、餅を食べた。
「う、うまいです。和尚様」
和尚は優しい目で、声をあげ笑っていた。
それきり、小僧は山姥の話をすることもなく、弱い者いじめをせず、修行に真剣に打ち込み、立派な坊主となったという話。
了
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山を覆いつくした赤い色がみるみる黒い灰に変わり、白い煙があがった。
それをみて、もうだめか、と観念しかけた。そのとき、ようやく前方に寺の黄色い光が小さくみえてきた。
「た、たすけてください」
小僧はかすれた声を漏らした。生きた心地がしなかった。ひたすらに足を前後に出した。もう疲れ果て、呼吸も満足にできていない。乱れた息が、たどたどしくなってきた。そこでようやく寺の門にたどり着いた。
「待たんか、小僧おおおおおおお」
後方で絶叫する山姥の声が響く。
「和尚様、栄鏡です。開けてください」
和尚の住む庫裡の戸を激しく叩いたが、和尚様はなかなか開けてくれなかった。
「和尚様、開けてください。山姥がすぐそこまで来ているのです。いままでの乱暴な私をお許しください。これからは、心を入れ替えしっかりと修行にうちこみます」
涙声で叫ぶと、ようやく和尚は戸を開けてくれた。
「中に入れ」
そういい、和尚は小僧を奥の部屋に隠した。
するとすぐに、真っ赤な口を開け、甲高い声の山姥が寺にやってきた。
「小僧を出さんか」
山姥が腕を振り上げた。
「小僧など知らないわ」
和尚は平然と答える。
山を覆いつくした赤い色がみるみる黒い灰に変わり、白い煙があがった。
それをみて、もうだめか、と観念しかけた。そのとき、ようやく前方に寺の黄色い光が小さくみえてきた。
「た、たすけてください」
小僧はかすれた声を漏らした。生きた心地がしなかった。ひたすらに足を前後に出した。もう疲れ果て、呼吸も満足にできていない。乱れた息が、たどたどしくなってきた。そこでようやく寺の門にたどり着いた。
「待たんか、小僧おおおおおおお」
後方で絶叫する山姥の声が響く。
「和尚様、栄鏡です。開けてください」
和尚の住む庫裡の戸を激しく叩いたが、和尚様はなかなか開けてくれなかった。
「和尚様、開けてください。山姥がすぐそこまで来ているのです。いままでの乱暴な私をお許しください。これからは、心を入れ替えしっかりと修行にうちこみます」
涙声で叫ぶと、ようやく和尚は戸を開けてくれた。
「中に入れ」
そういい、和尚は小僧を奥の部屋に隠した。
するとすぐに、真っ赤な口を開け、甲高い声の山姥が寺にやってきた。
「小僧を出さんか」
山姥が腕を振り上げた。
「小僧など知らないわ」
和尚は平然と答える。
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