小僧と三つのお札(2)
小僧と三つのお札(2)
2024/04/30(火) 08:30
(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
小僧は急いで居間に戻ると、すぐさま老婆も戻ってきた。
その瞬間
「お婆さん、我慢できないほど小便にいきたいのだが、便所はどこですか」と聞いた。
老婆は少し考えてから、こう答えた。
「便所は庭の奥だよ。ただ逃げないように、じゃなかった、ここに迷わずに戻ってこられるように縄を腰にしばってやろう」
そういうと、山姥は小僧が逃げないよう、腰に縄をしばりつけ、便所に送り出した。
いよいよ自分の命が危ないと感じた小僧は、そこでようやく、和尚様にいただいたお札の存在を思い出した。
懐から一枚お札を手に取った。
「お札よ、老婆がこの縄をひっぱったら、まだだよ、と相手に引っ張り返しておくれ」
小僧は固く縛られた縄を振える指でなんとか解き、お札と便所の柱を自分の身代わりとしてつないだ。
心の臓が口から飛び出しそうだが、必死に、便所の窓から逃げ出した。
真っ暗な山の中で足がもつれ、何度も小僧は木の根にひっかかり、転んだ。人も住んでいない山のため、助けもいない。さらに山をひとつ越えなければ、和尚様の待つお寺には戻れない。
山姥は、まだか、まだか、と縄を何度か引っ張ったが、そのたびに、同じ力で縄が引っ張り返してくる。
さすがにおかしいと気づいた。
「さては、小僧逃げおったか」
慌てて、便所に向かってみると、案の定、柱にくくられたお札が縄を引っ張り返している。
「逃がすか、小僧。食い殺してやる」
山姥は右手に大きな鎌を握り、小僧の匂いのする方角へあっというまに向かった。
「待たんか、小僧! 食い殺してやるわ」
まだそれほど山を下っていないのに早くも山姥の叫びと、激しい呼吸音が小僧の背後に迫ってきた。振り返ると、もうすぐそこまで山姥が迫っている。口が裂け、恐ろしい形相だった。
小僧は慌てて、懐より二枚目のお札を出した。
「お札や、大水を出して山姥を足止めしてくれ」
お札を後方に投げつけると、氾濫したような大水が出現し、濁流となり、山姥のほうへとぐろを巻いて向かった。
「ちょこざいな。小僧めが」
そう叫ぶと、山姥は真っ赤な唇を大きく広げ、その大水を口のなかにおもいきり吸い込んだ。大量の水が山姥の体内に吸い込まれていく。
小僧はさすがに肝を冷やした。山姥はひとつめの山の中腹だ。もう少しで二つ目の山に入る。
もつれる足で今度は二つ目の山を駆け上った。
老婆があっという間にすべての水を胃袋に収めるのがみえた。
小僧は最後のお札を手にし、叫んだ。
「最後のお札よ、一つ目の山を火の海にして山姥を焼いておくれ」
お札が山姥の向かってくる足元へ転がった。
あたりは火の海と変わった。
山の木々は轟轟と音をあげ、燃え上がった。
紅蓮の炎がバチバチと響き、小僧はさすがに山に対して申し訳ないと思った。
その隙に、どんどんと山をかけあがった。
山姥は少し、困惑したように立ち止まったが、いきなり大声をあげると
「小僧の浅知恵じゃ」
と絶叫し、大きく息を吸い込んだ。すると、先ほど飲み込んだ大量の水を口からばーっと吐き出し始めた。
つづく
(*メニュー欄『神社・お寺』から物語のつづきや他の昔物語を今なら全て無料で読むことができます。)
物語についてのご意見はこちらから
小僧は急いで居間に戻ると、すぐさま老婆も戻ってきた。
その瞬間
「お婆さん、我慢できないほど小便にいきたいのだが、便所はどこですか」と聞いた。
老婆は少し考えてから、こう答えた。
「便所は庭の奥だよ。ただ逃げないように、じゃなかった、ここに迷わずに戻ってこられるように縄を腰にしばってやろう」
そういうと、山姥は小僧が逃げないよう、腰に縄をしばりつけ、便所に送り出した。
いよいよ自分の命が危ないと感じた小僧は、そこでようやく、和尚様にいただいたお札の存在を思い出した。
懐から一枚お札を手に取った。
「お札よ、老婆がこの縄をひっぱったら、まだだよ、と相手に引っ張り返しておくれ」
小僧は固く縛られた縄を振える指でなんとか解き、お札と便所の柱を自分の身代わりとしてつないだ。
心の臓が口から飛び出しそうだが、必死に、便所の窓から逃げ出した。
真っ暗な山の中で足がもつれ、何度も小僧は木の根にひっかかり、転んだ。人も住んでいない山のため、助けもいない。さらに山をひとつ越えなければ、和尚様の待つお寺には戻れない。
山姥は、まだか、まだか、と縄を何度か引っ張ったが、そのたびに、同じ力で縄が引っ張り返してくる。
さすがにおかしいと気づいた。
「さては、小僧逃げおったか」
慌てて、便所に向かってみると、案の定、柱にくくられたお札が縄を引っ張り返している。
「逃がすか、小僧。食い殺してやる」
山姥は右手に大きな鎌を握り、小僧の匂いのする方角へあっというまに向かった。
「待たんか、小僧! 食い殺してやるわ」
まだそれほど山を下っていないのに早くも山姥の叫びと、激しい呼吸音が小僧の背後に迫ってきた。振り返ると、もうすぐそこまで山姥が迫っている。口が裂け、恐ろしい形相だった。
小僧は慌てて、懐より二枚目のお札を出した。
「お札や、大水を出して山姥を足止めしてくれ」
お札を後方に投げつけると、氾濫したような大水が出現し、濁流となり、山姥のほうへとぐろを巻いて向かった。
「ちょこざいな。小僧めが」
そう叫ぶと、山姥は真っ赤な唇を大きく広げ、その大水を口のなかにおもいきり吸い込んだ。大量の水が山姥の体内に吸い込まれていく。
小僧はさすがに肝を冷やした。山姥はひとつめの山の中腹だ。もう少しで二つ目の山に入る。
もつれる足で今度は二つ目の山を駆け上った。
老婆があっという間にすべての水を胃袋に収めるのがみえた。
小僧は最後のお札を手にし、叫んだ。
「最後のお札よ、一つ目の山を火の海にして山姥を焼いておくれ」
お札が山姥の向かってくる足元へ転がった。
あたりは火の海と変わった。
山の木々は轟轟と音をあげ、燃え上がった。
紅蓮の炎がバチバチと響き、小僧はさすがに山に対して申し訳ないと思った。
その隙に、どんどんと山をかけあがった。
山姥は少し、困惑したように立ち止まったが、いきなり大声をあげると
「小僧の浅知恵じゃ」
と絶叫し、大きく息を吸い込んだ。すると、先ほど飲み込んだ大量の水を口からばーっと吐き出し始めた。
つづく
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小僧は急いで居間に戻ると、すぐさま老婆も戻ってきた。
その瞬間
「お婆さん、我慢できないほど小便にいきたいのだが、便所はどこですか」と聞いた。
老婆は少し考えてから、こう答えた。
「便所は庭の奥だよ。ただ逃げないように、じゃなかった、ここに迷わずに戻ってこられるように縄を腰にしばってやろう」
そういうと、山姥は小僧が逃げないよう、腰に縄をしばりつけ、便所に送り出した。
いよいよ自分の命が危ないと感じた小僧は、そこでようやく、和尚様にいただいたお札の存在を思い出した。
懐から一枚お札を手に取った。
「お札よ、老婆がこの縄をひっぱったら、まだだよ、と相手に引っ張り返しておくれ」
小僧は固く縛られた縄を振える指でなんとか解き、お札と便所の柱を自分の身代わりとしてつないだ。
心の臓が口から飛び出しそうだが、必死に、便所の窓から逃げ出した。
真っ暗な山の中で足がもつれ、何度も小僧は木の根にひっかかり、転んだ。人も住んでいない山のため、助けもいない。さらに山をひとつ越えなければ、和尚様の待つお寺には戻れない。
山姥は、まだか、まだか、と縄を何度か引っ張ったが、そのたびに、同じ力で縄が引っ張り返してくる。
さすがにおかしいと気づいた。
小僧は急いで居間に戻ると、すぐさま老婆も戻ってきた。
その瞬間
「お婆さん、我慢できないほど小便にいきたいのだが、便所はどこですか」と聞いた。
老婆は少し考えてから、こう答えた。
「便所は庭の奥だよ。ただ逃げないように、じゃなかった、ここに迷わずに戻ってこられるように縄を腰にしばってやろう」
そういうと、山姥は小僧が逃げないよう、腰に縄をしばりつけ、便所に送り出した。
いよいよ自分の命が危ないと感じた小僧は、そこでようやく、和尚様にいただいたお札の存在を思い出した。
懐から一枚お札を手に取った。
「お札よ、老婆がこの縄をひっぱったら、まだだよ、と相手に引っ張り返しておくれ」
小僧は固く縛られた縄を振える指でなんとか解き、お札と便所の柱を自分の身代わりとしてつないだ。
心の臓が口から飛び出しそうだが、必死に、便所の窓から逃げ出した。
真っ暗な山の中で足がもつれ、何度も小僧は木の根にひっかかり、転んだ。人も住んでいない山のため、助けもいない。さらに山をひとつ越えなければ、和尚様の待つお寺には戻れない。
山姥は、まだか、まだか、と縄を何度か引っ張ったが、そのたびに、同じ力で縄が引っ張り返してくる。
さすがにおかしいと気づいた。
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