金太とたぬき母(3)
金太とたぬき母(3)(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
目の前には、徳利が二本転がっていた。確か、家には徳利は一本しかなかったはずだった。
――さては、狸のやつが先回りして化けているな。
金太は反射的に思った。
父親はまだ酔っているようで目の前の徳利に手を伸ばそうとしていた。
「お父さん、そういえば酒をやめたいと常々言っていましたね。いまからわたしが徳利をこの棒で叩き割ってやります。そうしたら二度と酒を飲めなくなりますからね」
金太は土間にたてかけてあった木の棒を取りに行き、その場で思いきり振り上げた。
「わ、わかった。酒を減らす。だから徳利を壊すな」
父親も徳利を割られてはかなわないと慌てた。
「ご安心ください。ふたつありますから、ひとつだけこの棒で叩き割ることにしましょう。残った徳利には私の小便を入れてやります」
そこまでいうと、ガタガタとひとつの徳利が左右に揺れた。
叩き割られても、小便をかけられてもかなわない、と思い狸が震えているのだろう。
「よし、こっちか」
金太は棒を振り上げ、左の揺れている徳利をたたいた。衝撃で煙とともに狸が姿を現した。
そのままその場で狸が白目をむいた。
目を回している間に、縄でぐるぐる巻きにしばりあげた。
「目を覚ましたか」
「あ」
「どうだ、逃げられまい。もう悪さはしないか」
「おゆるしください」
「わたしたち親子に悪さをしないと誓えるか」
「二度と悪さはいたしません。誓います」
狸は泣きながら、謝った。
酒好きの心優しい父親は、大粒の涙を流す狸を哀れにおもったのか、ゆるしてやろうではないか、と言った。
「これで、ひとを困らせたり、悲しませたりしてはいけないことをおまえも理解したはずだ。相手にやったことは必ずやられるものだ。どうせ化けるなら、今度からは、ひとの喜ぶことをするとよい」
金太もそういうと、狸を許してやることにした。
それから狸は、酔っ払った父親に道で遭遇するたびに、死んだ金太の母親に化けて、家まで送ってくれるようになった。
時には、家にあがりこみ、三人で仲良く話したりした。
狸は化けていることを二人にばれていないと思っているらしかった。
年老いた父親は女房が生き返ったと信じている様子で、喜んで狸の注ぐ酒を飲んでいた。
確かに母が生まれ変わったようで、楽しい時を過ごすことができた。金太は二人を喜ばそうとしている狸の気持ちがなによりもうれしかった。
数年後、狸が寿命で死んだ。狸が家にやってこなくなり、しばらくすると気落ちした父親も他界した。
母に化けた狸を父の六兵衛は心底楽しみにしていた。狸のおかげで父親は幸せだったのかもしれない、そう感じた。
金太は感謝をこめ、父と母の墓のそばに「たぬき母の墓」と書いた石を竹林の側に置いた。
その墓のある寺が、岡山県の山奥にあり、参拝すると家族仲が良くなる、という。
了
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目の前には、徳利が二本転がっていた。確か、家には徳利は一本しかなかったはずだった。
――さては、狸のやつが先回りして化けているな。
金太は反射的に思った。
父親はまだ酔っているようで目の前の徳利に手を伸ばそうとしていた。
「お父さん、そういえば酒をやめたいと常々言っていましたね。いまからわたしが徳利をこの棒で叩き割ってやります。そうしたら二度と酒を飲めなくなりますからね」
金太は土間にたてかけてあった木の棒を取りに行き、その場で思いきり振り上げた。
「わ、わかった。酒を減らす。だから徳利を壊すな」
父親も徳利を割られてはかなわないと慌てた。
「ご安心ください。ふたつありますから、ひとつだけこの棒で叩き割ることにしましょう。残った徳利には私の小便を入れてやります」
そこまでいうと、ガタガタとひとつの徳利が左右に揺れた。
叩き割られても、小便をかけられてもかなわない、と思い狸が震えているのだろう。
「よし、こっちか」
金太は棒を振り上げ、左の揺れている徳利をたたいた。衝撃で煙とともに狸が姿を現した。
そのままその場で狸が白目をむいた。
目を回している間に、縄でぐるぐる巻きにしばりあげた。
「目を覚ましたか」
「あ」
「どうだ、逃げられまい。もう悪さはしないか」
「おゆるしください」
「わたしたち親子に悪さをしないと誓えるか」
「二度と悪さはいたしません。誓います」
狸は泣きながら、謝った。