弥吾兵衛(やごべえ)と竜神(3)
弥吾兵衛(やごべえ)と竜神(3)(*神社やお寺に由来する伝承や日本に残る昔物語。今なら無料で全て読むことができます。メニューの『神社・お寺』から)
それから数日経ったある日、江戸から石倉の屋敷に早飛脚がやってきた。
「弥吾兵衛、大変じゃ」
石倉は初日のように弥吾兵衛の家に転がり込んできて、手紙の内容を口早に伝えた。
副将軍様の水戸の上屋敷が江戸に在る。その池に、数日前、不意に白いエイが二匹、出現し、悠々と泳ぎだした。それを耳にした将軍様が、少数の警護と共に、ご内密で、水戸屋敷へ足を向けられた。そして、雪のように白いエイを目にし、下総のエイであると看破された、という。
「あっぱれじゃ。このように、巨大できれいな白いエイ、余は生まれて初めて目にする。どういった工夫で下総より運んだのじゃ?」
将軍は扇子を振るって、喜ばれた。
「誰も知らないのか?」
将軍様が問うても、誰もが首を横に振った。
「不思議なものじゃ。勝手にエイがここまで泳いでくるわけもなかろう。運ぶにはたいそう苦労したはずじゃ。このエイを飼っている漁師を江戸に至急呼び、大いに褒美を与えよ。余は満足じゃ」
そう告げられると、白いエイは大切に江戸の水戸屋敷で飼われ、弥吾兵衛と石倉は屋敷に呼ばれた。
弥吾兵衛は生まれて初めて見る裃らしきものを上半身に着させられ、庭の石敷きに平伏した。石倉は、部屋の下座で両手をついていた。
「表をあげよ。こんな老人だが、わしは天下の副将軍とよばれる光圀じゃ。将軍様は、多くは聞かぬでよろしい、とおっしゃっていたが、わしは生来、なにかと知りたがりの性格じゃ。おおいに気になる。どのようにして、この見事なエイを下総より運んだか、少し教えてもらえぬか」
そう優しそうな眼で聞いてきた。
石倉は、ただただ、恐れ多いことでございます、と震えて平伏していたが、弥吾兵衛はきっぱりとこう答えた。
「常日頃、村人が尊崇しております、竜神様のご加護でございます」
水戸光圀は黙っていたが、しばらくすると、うなずき、そうかそうかとすべてを悟ったという表情となり、大きな声で笑った。
二人は将軍と副将軍から、褒美をもらい、鴇金に戻った。
村人は喝采し、弥吾兵衛たちを迎えた。
肝の据わった漁師の評判は、その後、下総中に響き渡った。
弥吾兵衛は百を超えるまで長生きしたという。
村ではその後、弥吾兵衛の墓を「竜神様」近くに祀り、いつしか「白竜様」と呼んだ。
「白竜様」を厚く信仰すると、心優しく勇敢な性格となり、何事も願いが叶うようになる、といわれた。
白いエイがその後、水戸屋敷でどれくらい生きたのかまでは、伝わっていない。
了
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それから数日経ったある日、江戸から石倉の屋敷に早飛脚がやってきた。
「弥吾兵衛、大変じゃ」
石倉は初日のように弥吾兵衛の家に転がり込んできて、手紙の内容を口早に伝えた。
副将軍様の水戸の上屋敷が江戸に在る。その池に、数日前、不意に白いエイが二匹、出現し、悠々と泳ぎだした。それを耳にした将軍様が、少数の警護と共に、ご内密で、水戸屋敷へ足を向けられた。そして、雪のように白いエイを目にし、下総のエイであると看破された、という。
「あっぱれじゃ。このように、巨大できれいな白いエイ、余は生まれて初めて目にする。どういった工夫で下総より運んだのじゃ?」
将軍は扇子を振るって、喜ばれた。
「誰も知らないのか?」
将軍様が問うても、誰もが首を横に振った。
「不思議なものじゃ。勝手にエイがここまで泳いでくるわけもなかろう。運ぶにはたいそう苦労したはずじゃ。このエイを飼っている漁師を江戸に至急呼び、大いに褒美を与えよ。余は満足じゃ」
そう告げられると、白いエイは大切に江戸の水戸屋敷で飼われ、弥吾兵衛と石倉は屋敷に呼ばれた。