全国名字めぐりの旅 第15回 岩手県（7）

古今無双の弓の名人といえば誰だろうか。
まず思い浮かぶのは、鎮西八郎為朝である。
為朝は清和源氏の嫡流、源為義の八男で、強弓をもって名を轟かせた。
身長二メートルを超える偉丈夫で、左手が右手より十五センチも長く、その矢は百発百中だったという。

　１１５６年に起きた保元の乱のとき、為朝は父為義と共に崇徳上皇に従い、兄の義朝(頼朝や義経の父)は後白河天皇に属し、親子兄弟で戦った。
戦場で義朝は為朝に向かい「天皇に従う兄に弓を引くとは何事ぞ」と叫んだ。
すると為朝は「兄者こそ上皇に味方する父上に弓を引くとは何事か」と言葉を返し、義朝に向かって弓を射た。
しかし、兄を射殺すのは忍びず、わざと急所をはずしたという。
これは為朝が生涯でただ一度射た無駄矢であった。
合戦は兄義朝が勝利し、父為義は斬首され、為朝は武勇を惜しまれ、腕の腱を切られた上で伊豆大島へ配流された。

　為朝の孫、閉伊(へい)行光は船で大島を脱出し、岩手県にたどり着く。
現在、岩手県や北海道で閉伊、田鎖、根市、天間舘、和井内、赤前、片岸、重茂、茂市、刈屋、花輪、江苅内、近内などと名乗っている家の多くは、行光の子孫であり、数少ない為朝の血脈である。
家紋は「隅立て四つ目」と「五七桐」など。