全国名字めぐりの旅 第38回 秋田県（12）

安保という名字がある。
「あほ」と読まれるので可哀そうな名字だが、古くは「あぼ」といい、後には「あんぽ」や「あぶ」とも呼ぶようになった。
秋田県では「あんぽ」と読ませる家が多い。

　安保はもともと阿保と書かれ、その歴史は古い。
古代の伊賀国（三重県）の名族に阿保(あぼの)君(きみ)がおり、近江国（滋賀県）には阿保(あぼの)朝臣(あそん)がいた。
「あぼ」とは古代の大和言葉で崖のことをいう。
そういう地から阿保地名が生まれ、それが氏(うじ)（古代の名字）に転じたのだ。
第５１代平城天皇の第一皇子が阿保親王と称していることからも、阿保は古代人にとっては由緒正しい名前だったことが分かる。

　秋田県の安保氏は現在の埼玉県児玉郡神川町元阿保から発祥した名族である。
地名は阿保だが、名字は安保である。
こういう例は珍しくはない。
名字は長い間に文字も変わるし、読み方も微妙に変化する。

　遠い祖先は第２８代宣化天皇という説が有力である。
その子孫が平安末期に元阿保の地へ住み着いて、はじめて安保次郎実光と名乗ったことが記録に見える。
安保実光は源頼朝に仕えて活躍し、現在の秋田県鹿角市あたりに所領を与えられた。
その末裔が秋田県内に広まったのである。
嫡流の安保氏は戦国時代、岩手県の南部氏に滅ぼされてしまった。
家紋は「七曜」と「七宝に花菱」紋をよく使う。