全国名字めぐりの旅 第35回 秋田県（9）

坂本龍馬が蝦夷地開拓を夢見ていたことは広く知られているが、その夢は甥の直寛(なおひろ)に引き継がれた。
直寛は明治になって自由民権運動に参加し、投獄されたときキリスト教に接して信者となった。
そして明治３１年には現在の浦臼町にあったキリスト教徒が運営する聖園牧場に移住し、洋館を建てて伝道に尽力したという。
その婿養子である坂本彌太郎は大正時代に札幌区会議員を務め、その二男が山岳画家として有名な直行である。

　坂本家の家紋は珍しい「組み合い角に桔梗」紋。
日本の歴史上、桔梗紋は第５６代清和天皇の流れをくむ清和源氏土岐(とき)氏族の代表紋とされ、土岐氏の分流にあたる明智光秀も使用している。
かつては龍馬の家も光秀の一族で琵琶湖を馬で渡った勇士、坂本左馬助光春の子孫といわれていたが、現在では否定されている。

　秋田県で桔梗紋をよく使う家がある。
船木家である。
船木姓は戦国時代から秋田県の古記録によく登場する名字だが、その遠い祖先はやはり清和源氏の土岐氏族で、美濃国(岐阜県)の船木村から発祥したという。
その末裔が北上して秋田県に至り、戦国時代は安東氏に従い、江戸時代になると秋田藩士に召抱えられた系統もある。
船木家は護符的な要素が強い「晴明桔梗」紋もよく使う。