全国名字めぐりの旅 第11回 岩手県（3）

岩手県でも県内第十三位の大姓。
そのルーツは源平時代の武将、熊谷(くまがい)直実(なおざね)である。
直実は愚直といわれるほど真っ正直で、情け深く、坂東武者の典型といわれた人物だ。

寿永三(１１８４)年に直実は源義経の軍にあって、一の谷(現在の神戸市須磨区)の平家軍を攻めた。
早暁の午前六時ころ、直実は陣を出てわずかな家来とともに平家軍に突撃し、声高らかに「熊谷直実、一番乗りなり！」と叫んだ。
遅れまじと他の源氏の諸将も後に続く。
驚いた平家は船に乗り、海へ逃れた。

　このとき平家の公達(きんだち)で笛の名手だった平敦盛(あつもり)が逃げ遅れた。
清盛の甥である。
海中に馬を入れていた敦盛に直実が呼びかけた。
「名のある大将とお見受け申す。
とって返して我と戦え」と。
これに応じて引き返した敦盛に直実は飛び掛かり、組み伏せた。
首を切り落そうとした時、兜の中の幼顔に気づく。
「そなた歳はいくつだ」「十六歳なり。
早くとどめを刺せ」。
直実の息子と同い年であった。
直実はためらったが、味方の足音が近づいてくる。
ここで逃がしても味方の誰かに討たれるだろう。
ならば、この手でと涙を流しながら敦盛の首をかき切った。
直実は桓武平氏の子孫で「寓生(ほや)」と「寓生にむかい鳩」紋を使用している。