地名から名字が生まれた

全国名字ランキングの上位では、〇藤姓と〇〇谷姓を除くほとんどすべての名字が地名に由来していました。

地名由来とはどういうことかというと、名字の由来を地名の語源で解釈できるということです。

もう少し具体的に説明しましょう。

たとえば今井さんが「今井という名字はどうして生まれたんだろうか？」と疑問を持ったとします。
答えは今井という地名から生まれたわけです。
次に「今井という言葉の意味は何なんだろうか？」と疑問をもったとします。
これに対する答えは今井という名字の母体となった今井という地名の語源が判れば解決します。
今井という言葉の意味（地名の語源）は「新鮮な井戸や新しく開削(かいさく)した水路」のことです。

では次に、今井という地名から名字が生まれた過程をみていきましょう。

今井さんのご先祖は、かつて今井という地名に住んだことにより、今井を名字としましたが、長い時間の間にご先祖はあちこちに家を構えたはずです。
そのうち今井という地をどうして名字にしたのでしょう。
　　
その理由は今井という地が家の歴史にとって重要な場所だったからです。
また名字を名乗る時期と今井という地に住んでいた時期とが一致したということも考えられます。
多くの家は武士になったときや明治５年（一八七二）に名字を戸籍に登録するときに名字を決めました。

今井さんが今井という場所に住んでいた時代がいつかは分かりません。
名字の発生時期から考えて一二～一九世紀の間と思われますが、この七〇〇年間の間に今井という場所も大きく様変わりしたことでしょう。

たとえば今井さんが住み始めた時期が早ければ、今井という場所には文字通り新鮮な井戸や新しく開削した水路があったでしょうし、今井さんはその掘削や造成に関わっていたかも知れません。

しかし時代が下ると井戸は涸(か)れ、水路も利用されずに埋め立てられてしまうことがあります。
そうなると、今井という土地に今井の痕跡(こんせき)はなく、ただ今井と呼ばれる平野が広がってるだけになってしまいました。
そうなると今井さんが井戸や水路と関わりを持つこともなかったわけです。

このように地名発祥の名字というのは、母体となった地名（場所）の状況変化によって、その地名を名字とした人との関係が変わってくるのです。

あなたのご先祖が現在使っている名字の地に住み着いたとき、その地がどのような状況・地形にあったかは調べてみなけば判りませんが、本書では語源となった状況や地形が保たれ、それにあなたのご先祖が積極的に関わっていたという前提で書いてみました。

今井さんであれば、「そばにあった井戸や水路を管理していたのではないか」という解説がこれにあたります。
この部分はたぶんに想像ですから「ふ～ん、そういう見方もあるのか」という程度で読んでいただいて結構です。

実際には、今井という土地に住み着いたことが縁(えん)で今井姓を名乗るようになった家のほかに、今井さんにゆかりがあったり、今井さんにあこがれて今井姓を名乗った家もあるでしょうから、今井さん一軒一軒の発生過程はなかなか複雑なのです。

しかし今井さんの発生過程がどうであれ、今井という名字の由来が「新鮮な井戸や新しく開削した水路を意味する今井という地名」であることだけは変わりません。

名字は当てられた文字から意味を推測されがちですが、推測がまったく違ったり、思いもつかないような意外な由来もあります。
このランキングの名字解説ではその点をトリビア的知識としてじっくりとお楽しみください。
知り合いの名字を次々と調べていくと、「へ～そうなんだ」と感心するものもきっと見つかることでしょう。