全国名字めぐりの旅 第62回 福島県（11）

福島県には丹治さんも多い。
「たじひ」と読む家が多く、まれに「たんじ」とも読む。

　この丹治さん。
もともとは丹比や多治比と書いた。
古い名字で、古代の記録にも出てくるが、「たじひ」とは何かというと植物のイタドリである。
俗名をスカンポといい、噛むと酸っぱい味がする。
イタドリは虎杖や蝮とも書く。
蝮と書くのはイタドリが動物に化けると蝮(まむし)になると信じられていたからだ。
蝮は霊意の強い虫で古代の人々は恐れつつも敬っていた。
同時にイタドリも霊草とされた。

　その「たじひ」を御名に使った天皇がいる。
５世紀ごろの第１８代反正天皇である。
天皇は「多遅比(たじひ)」と名乗って霊意を得ようと願い、自らを記念して少数の庶民に多治比という姓を与えた。
こういう人々を御名代部(みなしろべ)という。
天皇から多治比という姓をいただいた人々はこれを子孫に伝え、丹治とも書くようになった。

　福島県には１３世紀以前には移り住んでいた。
多くは神主として京畿からやって来た。
京畿では衰退したが、福島県では大いに栄えて一族を増やした。
家紋は名字にちなんで「虎杖」を愛用し、「剣片喰」なども使う。