全国名字めぐりの旅 第1回

名字とは何だろうか。
名字は個人を識別するための符丁という役割だけではなく、私たちが何者かを知る重要な手がかりにもなるのだ。
現在、日本にはおよそ３０万種類の名字がある。
そのなかには佐藤さんや鈴木さんのように２００万人近くの人が使っている名字もあれば、勘解由(かでの)小路(こうじ)のように１軒しか使っていない名字もある。
それら、すべての名字に固有の由来があり、歴史ロマンがある。

　私たちの名字は今から１０００年前にその多くが誕生した。
佐藤も鈴木も渡辺も佐々木もみなそのころに生まれた。
では、それ以前の日本人に名字は無かったのかというと、そうではない。
名字の前には氏(うじ)というファミリー・ネームがあった。
源義経の源(みなもと)や平清盛の平(たいら)、藤原道長の藤原(ふじわら)などは名字ではなく、氏である。
この氏はおよそ１５００種類ほどあり、一つの氏から無数の名字が生まれ出たのである。
氏は名字の母親なのだ。
たとえば武田信玄（家紋は武田菱）の武田は名字だが、この武田は源という氏から出た。
上杉謙信（家紋は上杉雀）の上杉は藤原という氏の子孫だ。
皆さんの名字もその多くは古代の氏につながっている。

　―いやいや、私の家は江戸時代まで名も無い庶民だから、どうせ名字なんて明治になって適当に付けたものだろうーと思っている方も多いだろう。
そう思われるのも無理はない。
長い間、歴史の授業でもそのように教えてきたからだ。
ところが、それは間違いだった。