全国名字めぐりの旅 第176回 神奈川県（9）

石渡さんは神奈川県らしい名字である。
「いしわたり」、または「いしわた」と読む。

神奈川県以外では千葉県に多いが、この千葉石渡族は神奈川県から移住したグループだろう。
ほかの地域ではほとんど見かけないため、全国の石渡さんの大半は神奈川石渡族の子孫と思われる。

神奈川県横須賀市に大明寺という日蓮宗のお寺がある。
この寺は建長５年(１２５３)に石渡左衛門という武士が建立した。
この石渡氏のことは『中興系図』という記録にも「清原姓、本国相模(神奈川県)、紋蔦」と見える。
清原氏とは第４０代天武天皇(６７３－８６)の流れをくむ平安貴族で、清原元輔の娘は清少納言と呼ばれて『枕草子』を書いた。
この才媛清少納言と石渡氏は同族なのだ。

ところで、石渡という言葉の語源は分かるだろうか。
石を渡る。
これだけのヒントで答えが分かった方は素晴らしい想像力の持ち主である。
答えは、川に並んだ石を飛び伝いながら渡ること。
橋が少なかった古代では、川を越えられる渡河地の石渡は大変重要な場所だった。

神奈川県の石渡さんのなかには後に藤原姓を名乗り、丸に三つ引きを使う家もあった。