全国名字めぐりの旅 第97回 石川県（7）

「雪は天から送られてきた手紙である」という名文を残した中谷(なかや)宇吉郎は明治３３年（１９００）に石川県加賀市で生まれた。
東京帝大理学部に入って実験物理学を志し、北海道帝大の教授となった。
このころから雪の結晶の研究に没頭し、昭和１１年（１９３６）には世界で初めて実験室で人口雪の製造に成功している。

戦争中、軍部は千島列島や道東の霧を晴らせないか、と中谷に相談した。
飛行機の滑走の邪魔になるからである。
中谷は地表から上空に昇る霧の濃度を測り、水滴を蒸発させるだけの熱量を試算して、滑走路の霧を晴らすだけなら重油をドラム缶２０本燃やせばいいと答えた。
すると軍は貴重な重油をそんなに使うのなら科学者などいらないと激怒した。
当時は軍部が絶対的な権力をふるっていた時代である。
にもかかわらず中谷は「呪文でも書いて振れば霧が晴れると思っているのか！　行者にでも頼め！」と怒鳴り返したという。
気骨のある人物だった。

石川県では「なかたに」と読む家が多いが、宇吉郎の家は「なかや」と読む。
ルーツは清和源氏や藤原姓など。
金沢藩士にあり、能登にも旧家がある。
家紋は「桔梗」や「橘」などをよく使う。