全国名字めぐりの旅 第95回 石川県（5）

石川県人と福井県人はライバル心が強い。
それは石川県が京都文化の影響を受け、福井県は大阪に憧れているからだ。
しかし両県のわだかまりは歴史上の対立にも根ざしている。
戦国時代(１４６７－１５６８)加賀国（石川県）は浄土真宗の門徒が支配していた。
彼らはしばしば隣国の越前国（福井県）に圧迫され、それに耐えかねて攻め込んだ。
これを越前の戦国大名朝倉氏は加賀の一向一揆と呼び、九頭竜川で迎え撃ったのだ。
このときのしこりがいまだに消えない。
さらに江戸時代になると幕府は金沢藩の背後を脅かす目的で福井藩を置き、将軍の一族を入れた。

　ところが名字は両県の垣根を軽々と飛び越えてしまう。
たとえば山岸さんである。
山岸さんは福井県坂井市三国町山岸から発祥した家で、ルーツは第３８代天智天皇の重臣藤原鎌足(６１４－６９)の流れをくむ。
福井県で誕生したが、石川県加賀市に移って大いに栄えた。
現在では石川県のほうが多いが、故郷の福井県にもしっかり残っている。
名字は歴史的な対立を越えて二つの県に足跡を残した。
家紋は「蔦」と「井桁(いげた)」などをよく使う。