名字ランキング 第155位　熊谷

名字博士と愛ちゃんが　熊谷姓について話しています。

「熊谷さんはクマガイと読むのに、埼玉県熊谷市はクマガヤなのよね」

「本来の正訓(せいくん)はクマガイだよ。熊谷市はね、谷だからヤだろうという発想で中世に読みが変わったんだ」

「熊谷さんの発祥地は熊谷市なの？」

「その場合が多い。熊谷市はかつて武蔵国大里郡熊谷郷といって、この地に住み着いた第五〇代桓武天皇(七三七―八〇六)の流れをくむ桓武平氏の武士が熊谷(くまがい)と名乗った。一の谷の合戦で平(たいらの)敦(あつ)盛(もり)を討ち取った武勇の士、熊谷次郎直実が有名だね」

「能の敦盛に出てくる人ね」

「よく知っているね。息子のような少年敦盛の首を取った直実は、この世の無常を感じて出家してしまった。だが、織田信長が愛唱した〈人生五十年、化天(げてん)のうちを比(くら)ぶれば…〉という一節は、能の敦盛じゃなく、幸若舞の敦盛に出てくるセリフだよ」

「幸若舞？」

「中世に流行した芸能でね、能や歌舞伎の原型になったともいわれている。源平合戦や義経、曽我兄弟の仇討ちを題材にしたものがよく演じられたけど、とくに敦盛は大人気だった」

「人生五十年…だけは知っている人が多いものね。信長を通じて幸若舞は現代に伝えられているわけね」

「そう。そして熊谷直実の子孫は東北で大いに栄えた。」